開催報告【グローカル・ビジネス・セミナー Vol.19】日本の物流を活性化する事業戦略としての「標準化」とは?

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明治大学奥山雅之研究室と共にお届けするグローカル・ビジネス・セミナー。

第19回は「日本の物流を活性化する事業戦略としての『標準化』とは?」を6/3(金)20時よりオンライン開催しました。ゲストとしてグリットコンサルティング 代表の野口 雄志(のぐち ゆうし)氏をお招きし、これからの日本の物流の在り方についてお話いただきました。

開催報告

全業種にあてはまる日本特有の構造的な問題

セミナーでは、まず日本の物流業界のおける現状や課題を野口氏よりご説明いただきましたが、これはIT業界にも同様のことが言えるとのことで、もっと言えば、日本のどの業種にもあてはまることなのではないかというような内容でした。

問題の根本は、「現場第一主義(=お客様は神様)」という考え方です。グローバルでは「標準化」を前提に提案内容で競争することに対し、日本では各顧客の要望にあわせる「カスタマイズ」が如何にできるかで競争がなされています。これが生産性を中心とした国際競争力の低下を招いています。

これはビジネス環境の違いも影響しているのは事実です。海外では労働の流動性が高いため、初心者でもすぐに着手できるような業務フローやITが必要となり「標準化」を推し進められたことに対し、日本では同一企業に長期にわたり勤務することから職人のような熟練した対応ができてしまうといった背景もあったとのことです。

結果、日本の顧客もそれがあたりまえになってしまいます。例えば、顧客である日本企業が海外で活動する際も、そういったニーズが強く、同じく海外に進出した日本の物流企業がそのカスタマイズ要望に対応しているといった実情もあるようで、企業側だけでなく顧客側の問題でもあるといった根の深い構造的な問題になっています。

この20~30年、国も企業も「破壊的イノベーション」の推進を口にしてきましたが、結局何も変わっていない状況で、野口氏としては「大企業や大都市でイノベーションを起こすのはもう難しい」との感想を持っているとのことです。

日本を甘やかすべきではない

日本の良さを活かした上での「標準化」を目指せないかとの意見もありましたが、参加者の方からは「そんな甘やかした話をしている場合ではないのではないか」との厳しいご意見がありました。

日本の某グローバル企業では、リクエストばかり多くて利益になりづらいという理由から顧客として日本企業を相手にしなくなる傾向が強くなっているそうです。また、海外の人は、日本企業で働くのを嫌がります。プロセス管理ばかりが厳しく、パフォーマンスで評価されない上に、実力ではなく年齢で給料が決まるからです。

日本が日本の中だけで何かやっているから、様々な面で相手にされなくなっている、国際競争力が低下しているような状況で、「日本のサービスが良い」というポジティブな側面に目を向けている段階ではないとのご意見です。

至れり尽くせりの時代は終わった、サービスではなく知恵を出す方が強い、そういった概念をあたり前にするような「日本の常識を世界の常識に合わせていく」ということを本気で進めなくてはいけない。よく聞くようなフレーズですが、実例を挙げられるとそのまずさを痛烈に感じました。

鍵は地方都市、中小企業の仕掛け

野口氏は、地方都市や中小企業にこそ、この構造を打開する可能性があるのではないかとの見解を持っています。

地方では小ロットでしか販売できず物流コストが高騰してしまう課題があったりしますが、ローカルからいかに効率的に貨物を集めて効率化できるかといった地方都市プラットフォームのような構想は今のデジタル技術があれば十分可能とのことで、マーケット次第であるものの、非常に面白いテーマであるとのことです。

また、「標準化」は便利なもので、今すでにあるものをゼロから作る必要はないという点で今から始める企業にも非常に活用度の高い概念になります。

ただし、そのためには中小企業、地方都市がスクラムを組んでそれに取り組むことが必要です。物流業界でも感じていたようですが、企業同士が協力する文化が弱い気がするそうです。競争相手ではあるものの顧客の取り合いをしているだけではダメなのではないかと。

非常に難しい問題ではあるものの、大胆な発想、とんでもないアイデアをいたずらにつぶすことなく、どんどん仕掛けていくことで状況は変えていけるのではないかとの野口氏のコメントがありました。

登壇者プロフィール

野口 雄志(のぐち ゆうし)

グリットコンサルティング 代表
株式会社グリッターフレンズ 代表取締役
株式会社アレルド エグゼクティブ・パートナー

日本通運株式会社に入社後、情報システム部門、国際輸送部門、海外米国)現地法人勤務を経験し、2007年から本社IT部門のトップになるや7年間でIT部門の大改革を行い成功を収める。2012年日経BP社クラウドイノベーションアワード賞を受賞。2014年の定年退職後はコンサルティング会社を起業し、企業の戦略支援や人材育成でお客さまの個別のリクエストに応えながら、人気のセミナー・講演講師としても全国、海外を忙しく飛び回っている。

■著書
『定年後の人生を黄金期にする方法』 2018年
『最強の定年後』 2019年
『働くことは人生だ!~君たちはどうはたらくか?~』 2021年

奥山 雅之(おくやま まさゆき)

明治大学政治経済学部 教授

中小企業施策の企画・立案に長く携わるとともに、各自治体の施策検討委員会委員などを務める。専門は地域産業、中小企業、地域ビジネス、起業、製造業のサービス化、企業診断、産業政策など。博士(経済学)。科学研究費を得てグローカルビジネスを研究中。

開催実績

タイトル 「日本の物流を活性化する事業戦略としての『標準化』とは?」
開催日時 2022年6月3日(金)20:00~21:00
主 催 NPO法人ZESDA
明治大学奥山雅之研究室
共 催 研究・イノベーション学会プロデュース研究分科会
グローカル・ビジネス・セミナーについて

近年、新たな市場を求めて地方の企業が国外市場へ事業展開する動き(グローカル・ビジネス)が活発になっています。しかし、地方の中小企業が国外市場を正確に捉えて持続可能な事業展開を行うことは、海外人材の不足(語学能力含む)、ITスキル、カントリーリスク等一般的にはまだまだハードルが高いのが現実です。

そこで、グローカル・ビジネスの実態把握を通じて特有のマネジメント理論の確立を目指して研究している明治大学奥山雅之研究室と、地域企業に対して都市人材の海外ネットワークやスキルをプロボノ活動によって提供してグローカル・ビジネスの支援に一定の成果を上げているNPO法人ZESDAが協働し、地域の中小企業におけるグローカルビジネスの成功事例や興味深い挑戦事例に関わったキーパーソンを招聘して事例研究を行って知見を貯め、また研究・ビジネス人材のネットワーク・コミュニティを構築することを通じて、グローカル・ビジネスの発展に貢献するべく、グローカル・ビジネス・セミナーのシリーズを企画していきます。