NPO法人ZESDAは、「官民恊働ネットワークCrossover21」(中央省庁の若手職員を中心とする異業種間ネットワーク)、「霞ヶ関ばたけ」(霞ヶ関界隈で勤務するビジネスマン有志の勉強会)、「TEDee@kasumigaseki」(同地域の英語ディスカッションの勉強会)との共催、(株)自由が丘パブリックリレーションズの協力により、在京の大使館、国際機関や外資系企業の職員、及び市民社会関係者をスピーカーに迎え、国内外の政治・経済・社会問題について英語での議論を通じて理解や問題意識を高める、「Platform for International Policy Dialogue (PIPD)」を開催しています。
12月10日(水)朝7時30分より9時まで開催した第四回PIPDセミナーでは、ゲストスピーカーにDVDを活用した遠隔地教育システムで農業・教育の格差を埋めるInnovativeなビジネスを展開中のバングラデシュの若き社会起業家マヒン・マーティンさんをお招きして、社会変革をもたらすソーシャル・ベンチャーの可能性と挑戦について議論しました。なお、社会起業家に贈られる様々な賞を受賞し、日本・バングラデシュのメディアでもその活躍が取り上げられているマヒンさんの横顔とビジネス・モデルについては、下記の記事より参照いただけます。
http://news.livedoor.com/article/detail/9272813/
マヒンさんのプレゼンテーションは、ご自身の生い立ちから始まりました。バングラデシュの南部、大河の川沿いにあるチャンドプール県ハムチャ村の農家の長男として生まれたマヒンさんは、経済的理由で高等教育をあきらめた姉に代わって自分が大学へ進もうと、鉄の意志をもって不眠不休の勉強を続けた結果、見事、バングラデシュ最高峰の国立大学であるダッカ大学の開発経済学部へ合格しました。ハムチャ村から大学進学者が出たのは実に40年ぶりのことでした。マヒンさんは、自分以外にも、有望な若者は農村部に大勢いるものの、彼らの高等教育進学を阻む高い壁があると指摘します。それは、難関校合格には、「一時間で90問」を「9割以上正解する」ために必要なテクニックを教えてくれる予備校に通うことが必須であり、そのために月々1万タカ以上の月謝が必要であること。ダッカ大学をはじめとするバングラデシュの国立大学の学費は月々20タカ(約20円)程度、無料の学生寮に入ることが出来、食費も半額は国からの支援が出るそうですが、予備校に必要な学費という壁により、たとえば、ダッカ大学のマヒンさんの同級生の殆どが、こうしたサービスを地理的・経済的に活用できるダッカに住む裕福な家庭の子供たちだったのです(注:バングラデシュの小学校教師の月給は平均で8,000タカ程度)。
「どうしたら、都市と農村、富裕層と低所得層との間に存在する教育格差を埋め、意欲とポテンシャル溢れる村の後輩たちに、高等教育への道を開くことが出来るだろうか・・・?」
思い悩んでいたマヒンさんが出会ったのが、グラミン銀行総裁のユヌス博士のような社会起業家を夢見てバングラデシュに乗り込んでいた早稲田大学の学生(当時)の税所篤快君でした。マヒン君の問題意識を聞いた税所君は、日本の代々木ゼミナールが提供しているような「ビデオ教育」が、農村部の学生たちの前に聳える壁を打ち破る、シンプルだが効果的な方法ではないかと提案。「カリスマ講師」の名が高い、数学や英語の予備校講師にコンセプトを説明して支持を得たうえで、彼らの授業をビデオで撮影、これをDVDにコピーしてラップトップ・コンピューターともにハムチャ村に持ち込んで始めたのが、E-Education Projectでした。結果、過去40年間、マヒンさん以外に大学進学者すら出ていなかった村から、1名のダッカ大学合格者と4名の名門国立大学合格者が生まれるという奇跡のような結果がもたらされました。現在4年目に入ったE-Education Projectは、東京大学の研究費や世界銀行との協働を通じて、利用者である学生からの負担を最小限に抑えつつ、スケールアップを模索して試行錯誤を続けているとのことです。
現在、マヒンさんは、DVD教育を活用した同様のアプローチで、チョール(中洲)地域の農業生産性向上に向けた「E-Farming」プロジェクトも展開中。政府の農業普及員がアクセスできないために生産性の低い農法を続け、大消費地から離れているが故に、中間販売業者や物流業者に搾取されている中洲地域の農家の生活水準の向上を目的に、農業の専門家による効果的な大豆農法をわかりやすいビデオ講座として収録、収穫量の高い種子とともに中洲地域に持ち込んで農家と共有しています。生産された大豆は、中間業者を通さずに、マヒンさんの会社が直接チャンドプール市内やダッカ等のマーケットに販売することで、農家にとっても、マヒンさんの会社にとっても、大きな利益が期待できます。さらに、拡大した収穫量と売上で得た所得については、共同の貯蓄プールをつくり、これで、トラクター等の農業機械を共同購入する計画を策定中。日本の農協のようなモデルをバングラデシュの中洲地域に打ち立てようと奮闘中です。
マヒンさんからの熱意溢れるプレゼンテーションに続く質疑応答では、特に財務面からE-Education Projectの持続可能性を確保するうえでの課題、縫製業などの他業種への同じモデルの適用可能性、他機関とのコラボレーションのあり方、挫折を乗り越え変革を起こすうえで最も大切な要素である「自信」の源とは何かなどについて、活発な意見交換が交わされました。
今後もZESDAはグローバル・ネットワークを構築していくため、「Platform for International Policy Dialogue(PIPD)」を共催して参ります。 引き続き、ZESDAを宜しくお願い致します。