ZESDAが能登「春蘭の里」で被災地支援ボランティア活動(古民家清掃&ピアノ演奏会)を実施

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2024年3月8日〜10日、NPO法人ZESDAは奥能登「春蘭の里」で、災害支援のボランティア活動を実施しました。

本稿は今回のボランティア活動に参加したZESDAスタッフの永渕が執筆しました。能登半島の被災地の一端を直接目にした者として、また、本業では地方公務員として働くパラレルキャリアのスタッフとして、自分なりに考えたこと・感じたことなどを含め、以下、率直に述べさせていただきます。

1 3月8日(金)24時:集合@金沢駅

今回のボランティア活動には、ZESDAスタッフと関係者の計7名人が参加しました。このうち、今回の企画立案者である瀬崎ZESDA理事を含めた4人が、3月8日0時、金沢駅に集合しました。

▲深夜の金沢駅

金沢駅を見送りながら、一行はレンタカーで、深夜の道を春蘭の里を目指して移動しました。金沢駅から春蘭の里までは2時間半程度でした。能登半島に近づくにつれ、道路の端々の亀裂や真新しい舗装跡など、震災の爪痕をあちこちで目にしました。日頃、被災地のニュースは目にしてはいても、やはり実際に目の当たりにすると、胸に迫りくるものがあります。

▲倒壊した家屋

春蘭の里への到着は深夜午前3時半となりました。午前1時過ぎから降り続いていた雪は、さらに勢いを増していて、辺りもすっかり冷え込んでいました。一行は、そのまま春蘭の里内「木場邸」に入り、ひとまず眠りにつきました。

▲春蘭の里内「木場邸」。ZESDAがかつてワーケーション向けの施設にリフォームするお手伝いをした一室に宿泊。

【ZESDAが支援したクラウドファンディング企画】喜一郎の夢!<里の生き残りをかけた地域創生空き家改修プロジェクト>(目標額50万円達成!)

2 3月9日(土):「水上邸」の清掃

▲早朝の春蘭の里。能登様式の古民家と美しい雪景色。

午前8時頃に起床し、朝食を済ませた4人は、ZESDAと長く協働関係にある(一社)春蘭の里多田喜一郎前代表理事の案内の下、今回片付け作業を行う「水上邸」に向かいました。

水上邸は、40年ほど前まで地域の名士・水上医師の診療所として使われていた、能登の黒瓦が美しい築百年の木造家屋。2020年に(一社)春蘭の里がゲストハウスとして改修し、2024年にはカフェとして運用を始めようとしていました。しかし、今回の震災によって家屋全体が被害を受けた後は、やむなく放置されていました。

▲水上邸外観

▲和室Aの状況(作業前)

▲旧診療室の状況(作業前)

被害状況は写真でもお分かりになるように、階段や各部屋の土壁が剥がれ落ち、仏壇などの主な家具は全て倒れ、食器やガラスの破片等もあちこちに散らばっている状態でした。

そのため、清掃作業は、剥落した土壁を土のう袋に詰めて外に運び出し、転倒している家具を整理することから始まりました。

▲剥落した土壁の撤去作業

午後は、能登空港から合流した当法人の桜庭代表等3名を含む計7名で引き続き清掃作業を行いました。日没(18時頃)までには、一応の片付けは終了しました。

▲和室Aの状況(作業後)

▲旧診療室の状況(作業後)

▲清掃作業に参加したZESDAスタッフ等の集合写真

清掃作業後、ZESDAスタッフは木場邸に戻り、多田氏とともに囲炉裏を囲んで、簡単な夕食をとりました。多田氏からは、春蘭の里の詳細な被害状況や復旧状況について、じっくりとお話を伺うことができました。

多田氏によれば、震災から2ヶ月が経過して、道路の修繕はかなり進んでおり、震災直後は、春蘭の里から金沢まで7時間以上かかっていたところが、今では、2時間程度で到着できるようになったとのことです。一方で、集落内には、倒壊したまま放置されている家屋や神社境内、決壊したままの堤防などが多く残っており、復旧にはまだまだ時間が必要とのことでした。

また、春蘭の里のポテンシャルについてもあらためて語り合われました。能登の里山は世界農業遺産に認定されるほど、山の幸、海の幸、川の幸が実に豊饒です。

多くのZESDAスタッフも過去に、多田氏にきのこや山菜採りをご案内いただいており、その圧倒的な豊かさを肌で知っています。春蘭の里にはとてつもない底力がある。復旧・復興、そしてその後の発展も、必ず可能だと、一同で固く確認し合いました。

多田氏との夕食後は、疲れが出たのか、ZESDAスタッフは一同、早々に床につきました。

3 3月10日(日):避難所訪問とピアノ演奏会

3月10日(日)午前、一行は、8年前から能登の地域活性化に向けてZESDAと協働してきた能登町役場職員の灰谷貴光氏を能登町立小木中学校の避難所に訪ね、行政の震災対応や今後の展望等についてお話を伺いました。(灰谷氏は「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2020」の受賞者でもあります。)

まず、能登町の被災状況は、3月10日時点で、およそ半数の地域が復旧に向かいつつあるものの、断水の続く地域がまだまだ残っており、被害が深刻な地域では、帰宅できていない人たちも多くいらっしゃるとのことです。

▲灰谷氏(中央の青い服)とZESDAスタッフ。後ろは段ボールで仕切られた避難者の方々の寝床。壁に描かれたイラスト画が印象的。(撮影は許可を得ています。)

道路には亀裂が走ったり、地面がせりあがったりして、1メートル程の断層が生じた箇所もあったそうです。そうした箇所には、自治体や地元の土木建設業者の方々が支援に入り、道路を一本一本修復して通行可能にしていったそうです。

また、灰谷氏からは、能登町役場職員の皆さんが避難所で住民の皆さんと昼夜をともに過ごし、他市との連絡が取れない状態のなかで、断水の状況を把握するために一軒一軒確認してまわったこと、地域の方や自衛隊に協力を仰ぎながら、寸断された道路の補修を一つ一つ進めていったことなどについて伺いました。そして、復興に向けて、被災した町民・事業者らに対して、まだまだ長期の支援が必要である旨をお聞きしました。

一地方公務員として働く筆者自身にとって、ご自身も被災していながら、それでも町民のために奔走されている灰谷氏をはじめとした能登町職員の皆さんの言葉は、他人事としては聞くことができず、大変重く響きました。

▲灰谷氏(右から3人目)はじめ能登町役場の方々とZESDAスタッフの集合写真

灰谷氏のお話を伺った後、一行は、春蘭の里の避難所として活用されている、廃校を利用した宿泊施設「こぶし」に向かいました。

「こぶし」を中心に被災生活を送る方々の励ましになればとの想いから、桜庭代表と、今回のボランティア参加者の中野彗氏によるピアノ演奏会を開催しました。

▲ピアノ演奏会の様子(動画リンク。イヤホン推奨)

▲中野氏の演奏風景

▲桜庭代表の演奏風景

被災者の方々のほんのひと時の憩いの時間になればと、瀬崎理事が企画したこのピアノ演奏会は1時間ほどに及び、アンコールの3曲も含めて、計7曲が演奏されました。中野氏はドビュッシーの「アラベスク」を演奏、桜庭代表は、映画「ピアノ・レッスン」のメインテーマ曲「楽しみを希う心」、桜庭代表が春蘭の里にちなんで作曲した「春蘭の朝焼け」と「春蘭の夕暮れ」、ショパン「夜想曲」、映画「紅の豚」より「マルコとジーナのテーマ」を演奏しました。

桜庭代表は演奏にあたり「言葉にできない想いがある。ピアノで伝えたい。」と述べましたが、贔屓目に見ても、その言葉通りの演奏会になっていたように感じました。東京と能登。離れてはいても、8年もの間、ともに未来を紡ぎ続けてきたZESDAと春蘭の里。その絆の、筆舌に尽くせない強さがあらわれていたように思います。

演奏会の最後に、多田氏から「春蘭の朝焼け」をもう一度演奏して欲しいとのリクエストがありました。桜庭代表が応じてもう一度演奏した後、多田氏は桜庭代表に握手を求めながら「今日まで、とにかく前だけ見て頑張ってきたけれど、ピアノを聞いて、ふっと、涙が止まらなくなってしまった。ありがとう。」と語り、二人は熱い抱擁をかわしました。多田氏の目には、娘の真由美さんですら、ほとんど見たことがないという涙が浮かんでいました。人が人に対して想いを伝えるときに、そして祈りや願いを向けるとき、難しい概念も、細々とした説明も必要ない。ただ、相手に想いを伝えたいという一心と、行動に移す情熱があれば良いのだ。そう思わされる演奏会であったと思います。

▲イベント終了後の集合写真。「頑張ろう、春蘭」の想いを拳に込めたポーズ。参加者の手には、桜庭代表の父が春蘭の里を描いた絵葉書。

▲演奏会終了後、熱い抱擁をかわす桜庭代表と多田氏。涙が垣間見えた場面。

演奏会の終了後には、演奏会に参加してくださった、ブルーベリー農園の「ひらみゆき農園」の平美由記さんと、しいたけ栽培農園の「農事組合法人のとっこ」の上野朋子さん、そして春蘭の里代表理事である多田真由美さんの女性起業家3人と、ZESDAスタッフとの間で意見交換会を行いました。

▲能登を代表する女性起業家3名とZESDAスタッフの意見交換会の様子。

2時間以上に及んだ様々なお話の中で、筆者の印象に残ったのは、上野さんの「先日、町の外に出た時、人々は既に震災への関心を失いつつあるような感覚を覚えた」というお話でした。確かに、現在、様々なメディアが、震災の被害や復旧の状況を報道していますが、それだけに、ついついわかったような錯覚が広がってしまっていて、現地住民の皆さんの肌感覚や復興に向けて必要となる継続的な支援への関心は、かえって失われてしまっている、という面はあるのかもしれません。

▲左から「ひらみゆき農園」平美由記さん、瀬崎ZESDA理事、農事組合法人「のとっこ」上野朋子さん、桜庭ZESDA代表

4 まとめ

今回のボランティア活動では、現地で実際の被害状況を目の当たりにし、復旧に向けたお手伝いをしながら、被災者の皆さんから様々な声をお聞きすることができました。

災害復興には長い時間と、大量の資金が必要です。国からの支援だけではなく、近隣自治体や地元住民の踏ん張りを前提に、日本全国からの支援が継続的になされるかどうかがカギとなります。

ZESDAが実施した支援は、古民家の片付けとピアノ演奏会という小規模なものではありましたが、実際の被災現場を肌で感じ、被災者と想いを共有することの意味を確認できる機会となりました。

今回のボランティア活動を受け入れてくださり、様々な話を聞かせてくださった多田喜一郎様・多田真由美様をはじめとした春蘭の里の皆様、貴重なお時間を割いて被災地の現状についてお話しいただいた能登町役場の灰谷様はじめ、多くの方々には大変お世話になりました。本当にありがとうございました。

今後もNPO法人ZESDAは、春蘭の里との協働を進めていきます。

ZESDA公式Instagramの投稿:【頑張ろう春蘭の里!】
https://www.instagram.com/p/C4YUII9PeB7/?igsh=MXZ6djFibXh4M2ozMw==

※最後の最後に、キノコにまつわる小話とともに、お願い。

キノコは漢字で「木の子」と書きます。ここには「木の子ども」つまり木との共生関係にある生き物という意味が含まれています。木に依存するわけでもなく、さりとて搾取されているだけではない、片方が倒れれば、もう片方も倒れてしまうような、共に生きる関係性、それ自体を「木の子」と昔の人たちは表現していたそうです。

そんな木の子を応援していくという意味でも。現在、上野さんの主催で、しいたけ農園「のとっこ」のクラウドファンディングを実施中です。皆様からの支援のご協力お願いいたします。

https://readyfor.jp/projects/138136