明治大学奥山雅之研究室と共にお届けするグローカル・ビジネス・セミナー。第18回は「『ちょうどよい疎』という北海道東川町のまちづくり戦略」を4/27(水)19時30分よりオンライン開催しました。ゲストとして北海道上川郡東川町の松岡市朗(まつおか いちろう)町長をお招きし、東川町のまちづくり戦略についてお話いただきました。
開催報告
「町がこうありたい」というToBeに重きを置く
書籍等でもユニークなまちづくりで紹介されている東川町。
ベースとなるコンセプトは最近考えられたものではなく、数十年前から継続しているものが多く、年月を経って成果が見える、評価させているものが多い印象です。
まちづくりの方針として「写真の町」をかかげ、条例を作っていますが、それは1985年のことです。当時は地方が経済的にも厳しくなっていく環境で、何に重きをおいてまちづくりをするかという点で、地元産品等の有形資産ではなく、写真という無形資産/文化に着目するというのは簡単なことではなかったようですが、
「写真を撮られても堂々としていられる子供を育てよう」
「写真に撮られても恥ずかしくない街づくりをしよう」
というコンセプトを掲げることで合意形成ができたとのことで、条例化していたことによって、後に様々な合意形成を得る際も町民の理解を得やすくなったようです。まさに魂の入った条例づくりだったと言えます。
昨今のコロナ禍において「密」であることのデメリットが浮き彫りになりましたが、それより数十年前から対極である「疎」に価値をおき「疎のある空間:適疎な町」を追求できたのは、この当時の方針があったことが影響しているのは間違いありません。
国内初の「町立」日本語学校を開始したこともユニークです。
元は地元の専門学校の学生減少の対策として始めたことで、それだけであれば通常の取り組みと言えますが、特徴的なのはこれらを「日本語+日本文化教育」という文化をベースに考え、留学生を支援するというコンセプトのもとに取り組んだことです。これらは経済的な好循環にもつながっていて、例えば、外国人介護人材育成支援を行っていますが、この支援事業に取り組む自治体はほとんどないそうで、介護人材がいることで人口流出が止められるといった効果もあるそうです。また、卒業した留学生は帰国後も、東川町へ貢献してくれる方が多く、留学生募集の窓口事務所をしてもらって直接委託する等、独自の海外ネットワークを築くことも実現できています。
自治体の活動は「何をするか」といったToDoがメインになりやすい中で、東川町は「町がこうありたい」というToBeに重きを置いていて、それが町民の理解、誇りにつながり、町の活性化につながっているとのコメントが奥山先生からもありました。
コンセプトを支える人材のすごさ
松岡町長からのプレゼンは、とにかくキャッチーなフレーズやコンセプトが飛び交います。
- ポジティブILPT(I Love Positive Thinking)
- 3つの「Wa」(和・話・輪)
- 3つのキョウドウ(協働、協同、共同)
- 3つの「共」の共有(共和、共生、共栄)
- 3つの「間」(空間、時間、仲間)
- 3つの「Cha」(Change、Challenge、Chance)
- 三減(消費減退、人口減少、税源減収)回避から三GEN(人間、資源、財源)確保へ
…などなど、常に町民や職員に対して、伝わりやすいメッセージを発信している様子がうかがえます。
奥山先生からは、民間の商社マンのような自治体にはあまりいないアグレッシブな職員が多いことも特徴的とのコメントがありました。
途中から登壇された吉原さんもそのお一人で、松岡町長が就任された際は「3つの『ない』(前例、他町、予算)は言わせない」との話があったそうで、他町を参考にする、進めるより予算を理由にお断りすることが多い自治体職員としては衝撃的だったそうです。人材育成のための人事も特徴的で、これも自治体ではあまりないようですが、相手側の気持ちがわかるように反対の立場の職務を担当させる等、ローテーションを活発に行うそうです。
また財源を自分で集めさせることを徹底していて、工夫して自分でなんとかするというマインドセットがそこから確立されています。結果、職員からの新しいチャレンジ、アイデアも多くなり、新たな経済の好循環につながっています。
独創的なコンセプトと施策、それを支える人材がかみ合う合理性が非常に魅力的な町だと感じました。
登壇者プロフィール
松岡 市郎(まつおか いちろう)
北海道東川町 町長
1951年生まれ。1972年 東川町奉職。
農林課長補佐、社会教育課長、税務課長を経て、2003年に退職。
同年、東川町長に就任。現在4期目。
雄大な大雪山系より流れる清流「忠別川」の美味しい水、澄んだ空気、肥沃な大地と美しい景観、恵まれた資源を最大限に活用し、新たな付加価値を創出しながら、写真文化首都「写真の町」東川町の地名度を生かしたプライムタウン(最高のまち)づくりに取り組んでいます。
また、職員の知力と実行力を求める「前例踏襲型」から「個性創造型」行政への転換を図り、住民福祉の向上に努めています。
奥山 雅之
明治大学政治経済学部 教授
中小企業施策の企画・立案に長く携わるとともに、各自治体の施策検討委員会委員などを務める。専門は地域産業、中小企業、地域ビジネス、起業、製造業のサービス化、企業診断、産業政策など。博士(経済学)。科学研究費を得てグローカルビジネスを研究中。
開催実績
タイトル | 「『ちょうどよい疎』という北海道東川町のまちづくり戦略」 |
開催日時 | 2022年4月27日(水)19:30~21:00 |
主 催 | NPO法人ZESDA 明治大学奥山雅之研究室 |
共 催 | 研究・イノベーション学会プロデュース研究分科会 |
近年、新たな市場を求めて地方の企業が国外市場へ事業展開する動き(グローカル・ビジネス)が活発になっています。しかし、地方の中小企業が国外市場を正確に捉えて持続可能な事業展開を行うことは、海外人材の不足(語学能力含む)、ITスキル、カントリーリスク等一般的にはまだまだハードルが高いのが現実です。
そこで、グローカル・ビジネスの実態把握を通じて特有のマネジメント理論の確立を目指して研究している明治大学奥山雅之研究室と、地域企業に対して都市人材の海外ネットワークやスキルをプロボノ活動によって提供してグローカル・ビジネスの支援に一定の成果を上げているNPO法人ZESDAが協働し、地域の中小企業におけるグローカルビジネスの成功事例や興味深い挑戦事例に関わったキーパーソンを招聘して事例研究を行って知見を貯め、また研究・ビジネス人材のネットワーク・コミュニティを構築することを通じて、グローカル・ビジネスの発展に貢献するべく、グローカル・ビジネス・セミナーのシリーズを企画していきます。