Dr. Robert D. Eldridge(法政大学 沖縄文化研究所 国内研究員、元米国海兵隊太平洋基地政務外交部次長)より 「沖縄問題の真実 ~米国海兵隊元幹部の告白~」 Platform for International Policy Dialogue (PIPD) 第28回セミナー開催のご報告

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NPO法人ZESDAは、「官民恊働ネットワークCrossover」(中央省庁の若手職員を中心とする異業種間ネットワーク)との共催、株式会社クリックネット まなび創生ラボ株式会社自由が丘パブリックリレーションズの協力により、在京の大使館、国際機関や外資系企業の職員、及び市民社会関係者をスピーカーに迎え、国内外の政治・経済・社会問題について英語での議論を通じて理解や問題意識を高める、「Platform for International Policy Dialogue (PIPD)」を開催しています。

7月15日(金)の朝7:30から9:00まで開催しました第28回PIPDセミナーは、在日米軍沖縄海兵隊司令部の元高官であり、現在、沖縄問題を中心に様々なメディアを通じて出版、執筆、翻訳活動を展開されているDr. Robert Eldridgeをゲスト・スピーカーとしてお招きし、「The Truth of the Issue on Okinawa –reported and unreported aspects of Okinawa(沖縄問題の真実-報道される沖縄、されない沖縄」をテーマにディスカッションを行いました。

Dr. Eldridgeは、ご自身が沖縄問題と向き合う際の基本的姿勢を、静かに、ゆっくりと、そして力強く語ることでプレゼンテーションを始めました。
「私が日本で暮らし始めて26年になる。この間、沖縄駐留の海兵隊幹部として7年間同地に勤務した経験を含め、20年以上に亘って沖縄の基地問題と向き合い続けてきた。そして今でも自分が愛する沖縄のことを考えない日は無い。」

「この間、私は常に「真実」を追究してきた。これには「熱意」だけでなく、事実を志向する科学的・客観的姿勢が大切だ。感情的になりすぎれば事実を損ね、事実ばかりを見ていては人々の感情を忘れてしまう。」

その上で、Dr. Eldridgeは「私の今日の話は、一つの結論を皆さんにかみ砕いて(spoon-fedで)伝えようというものではない。今日の話を材料として、ご自身でよく考えて頂きたい」と参加者に伝え、沖縄基地問題の「報道されない」側面を考える上でのキーワードと、たくさんの写真を紹介していきました。

Dr. Eldridgeは、沖縄は基地問題を巡って、いわゆる「保守」も「革新」も、「白か黒か」のレッテルを張りあい、互いの主張に耳を傾け合う状況にないこと、圧倒的なシェアを持つ地元二紙以外のメディア情報が限られる中、沖縄の基地とは直接の結びつきが希薄な外国を含む県外のグループが政治的思惑と既得権益を持って深く関与することで、問題がこじれ、また歪められてしまっていることを強調されました。

例えば、Dr. Eldridgeが沖縄海兵隊で広報担当を務められていた時、オスプレイ(固定翼機とヘリコプターの特性を併せ持った垂直離着陸が可能な航空機)の沖縄への配備が大幅に遅れましました。これは、危険性ばかりが喧伝されて政治問題化したためでした。しかし、その機能や安全性向上に向けた取組を沖縄県民に対してオープン且つ分かりやすい形で知ってもらうための「オスプレイ・ファミリー・デイ」といった海兵隊主催の取組みに多くの県民が参加してくれたことについては、殆ど顧みられなかったことを紹介されました。

また、喉に食べ物がつまり息ができなくなった時に応急措置で命を救ってくれた若き海兵隊員に感謝状を送った年配の沖縄県民女性や、「平和団体」と称するグループによるアメリカ人へのヘイト・スピーチとも受け取れる活動に心を痛めた米軍兵士やその家族を励ます「Heart Clean Project」活動に励んでいる沖縄県民の方々は、支持や賞賛ではなく、脅迫の対象となったり、脅迫を恐れて身分を隠さなくてはならなくなっているというストーリーを紹介されました。

併せて、Dr. Eldridgeは、「人口密集地に建設された」、「世界一危険な」という標語とともに報道されがちな普天間飛行場について、1945年に建設されて以来、一度も死者を出すような事故が起こっていないこと、宜野湾市人口が建設当時の6,800人から97,000人と十四倍以上に増加しているデータに示される通り、人口密集地を選んで基地が作られた訳では必ずしもなく、人々が様々な理由から基地の近くに住むようになったという事実を示されました。

Dr. Eldridgeは、基地反対派の主な集会には県外からの参加者が相当程度含まれていること、また「主催者発表」の参加者数は、会場となった施設の収容可能人数という客観的な事実に照らしても明らかに過大であるにも関わらず、「沖縄を代表する声」、「沖縄の声が一つになった」という形でメディアを通じて拡散されていくことにも、違和感を覚えると主張。「沖縄にも多様な声がある」という事実がかき消され、基地についての冷静な議論ができないことについて強い懸念を示されました。

そして、沖縄の海兵隊の拠点は、南シナ海をめぐる国際司法裁判所の判決等の動きにより中国による沖縄方面への進出が今後ますます活発になることが見込まれるなかで、日本の平和はもちろん、アジア・太平洋地域や世界全体の安定にとって極めて重要であることを強調されました。また、海兵隊は自衛隊ができない/やらない“3K(危険、汚い、きつい)ミッション”に取り組んでいることに触れつつ、「日本は何をしたいのか」がハッキリしないまま、非生産的議論が続けば、海兵隊が「付き合いきれない」と感じる日が来るかも知れないこと、その場合には、日本はより一層深刻な問題と直面するかもしれないと警鐘を鳴らして、プレゼンテーションを締めくくられました。

Dr. Eldridgeからの重く困難な問題提起に対して、会場からは多数の手が上がりました。「人々が異なる意見に耳を傾け、冷静に議論するための機会はどのようにしたらつくれるのか?」、「何故メディアは一方向に傾きがちなのか?」、「アメリカで大統領交代が予定される中で、米国の沖縄問題に対するスタンスや優先順位は変わりそうか?」等、様々な質問や議論に対して、Dr. Eldridgeは一つ一つていねいに答えて下さいました。

なお、Dr. Eldridgeは、国際性と広い視野を持ったリーダーを育てることを目的として公益財団法人「国際文化会館」が主宰している「新渡戸国際塾」の講師も務められています。

日々多忙を極めておられ、且つ、現在沖縄にお住まいであるDr. Eldridgeをゲスト・スピーカーとしてお迎えすることができたのは、これまでPIPDセミナーに参加されてきた「国際文化会館」の職員の方々にDr. Eldridgeをご紹介頂いたためです。この場をお借りして、ご厚意とご縁に感謝申し上げます。

また、今回もセミナー会場に「まなび創生ラボ」をお貸し頂いた株式会社クリックネット 社長の丸山剛様、並びに同社社員の皆様にもお礼を申し上げます。有り難うございました。