安倍フェロー スノー・ナンシー博士より「日本政府のPublic Diplomacy(広報外交)のあり方について」Platform for International Policy Dialogue (PIPD) 第14回セミナー開催のご報告

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 NPO法人ZESDAは、「官民恊働ネットワークCrossover」(中央省庁の若手職員を中心とする異業種間ネットワーク)との共催、(株)自由が丘パブリックリレーションズの協力により、在京の大使館、国際機関や外資系企業の職員、及び市民社会関係者をスピーカーに迎え、国内外の政治・経済・社会問題について英語での議論を通じて理解や問題意識を高める、「Platform for International Policy Dialogue (PIPD)」を開催しています。

 2015年6月10日(水)朝7時30分より開催された第14回PIPDセミナーでは、慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所訪問教授、及びカリフォルニア州立大学フラトン校コミュニケーション学部教授であり、故安倍晋太郎元外務大臣が提唱した研究奨学金プログラムである「安倍フェローシップ・プログラム」の一員として日本に招かれ「日本のブランディング戦略」の分野で活躍されている、ナンシー・スノー博士をゲストスピーカーとしてお招きし、「日本政府のPublic Diplomacy(広報外交)のあり方について」をテーマにご講演を頂いた上で、参加者の皆様とディスカッションを行いました。

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 冒頭で述べたようにスノー博士は、「安倍フェロー」として日本に招かれたご自身の役割について、「客観的な視点で日本の先行きを見つめ、起こりうる問題について警告を発する“炭鉱のカナリア(canary in a coal mine)”のような存在である」と紹介されました。そして、日本が直面する人口減少と少子高齢化、大規模災害、そしてシングル・マザー等の貧困といった諸問題に効果的に対処するには、「自分自身をよく知ること」及び「多様な業種で活躍する人材の参画を得ること」が必要であり、このことは、「国際社会において日本が正しく理解され、且つその存在感を高めるためのNational Brandingを展開していく上でも、重要である」と強調されました。

 そして、スノー博士は、National BrandingやPublic Diplomacyを効果的に進めるためには、事柄を物語(Narrative)と併せて伝える「Story Telling」が大切であると述べられた上で、安倍政権は「Abenomics」や「Womenomics」というキャッチコピーで、海外のオンライン、新聞、ブログ等の様々なメディアプラットフォームを利用して「Japan is back!」を印象づける「Abe’s Storytelling」を展開しているものの、政治主導の広報外交は政治リーダーの人気度によって変動するところがあることから、今後は、文化面にも力点を置いた、民間主導の取組みを展開すべきである、と主張されました。これに関しては、日本生まれの様々な文化が、異国でその地の風習を踏まえて形を変えながら世界中に広がるなかで、世界の日本に対する純粋な好奇心(Genuine Curiosity)が高まっていると述べられ、例として、日本発祥の料理である寿司のフランチャイズが世界中で数多く設立されていること、和食がUNESCOの世界無形文化遺産に登録されたこと、そして、仏教の禅が「ZEN」として、Steve Jobsの紹介もあってアメリカでは人気が高く、自転車屋、ゴルフ場など、ありとあらゆる場所で「ZEN」の文字を見かけ、「ZEN and Tonic」というカクテルまであるといった事例を紹介されました。

 そもそも、スノー博士が日本や日本文化に触れ、そして魅せられたのは、小津監督、黒沢監督といった日本映画との出会いがきっかけだったそうです。そして、日本はたくさんの物語で溢れているのだから、広報外交でも、もっと物語を伝える「Storytelling」の力を発揮すべきだが、Public Speakingに重きをおく欧米諸国の人々に比べて、日本にはこの分野のトレーニングを受けた人が少ないことを指摘。また、米国人、ドイツ人、フランス人、イギリス人を対象とした調査では、東京が世界で最もクリエイティブな街であり、日本人は創造的な能力に長けているとの回答が目立つにもかかわらず、日本人自身は、「勤勉」で「我慢強い」ものの、「クリエイティブ」ではない、というセルフ・イメージを持っていることを、調査結果のデータを参照しながら紹介されました。そして、「良くなく猫はネズミを取らない A mewing cat does not catch mice.」という諺にも触れつつ、人前でべらべらと話をすることについて日本人が懐疑的であることは美徳であるとしつつも、今後、日本が、自らに対する固定観念を変え、他者との認識のギャップを埋めるためには、人々のPublic Speakingの能力を強化し、自国の情報をもっと積極的に、英語で共有しなければならないと主張されました。

 スノー博士は、政府が主導する広報外交は時代遅れであり、市民が主役となる広報外交を進めるべきとも主張。この点において、スノー博士は、日本文化の発信と対話の拠点として、ロサンゼルス、ロンドン、サンパウロにPublic-Private Partnershipのアプローチで設立される「Japan House」に注目されているそうです。また、2020年には世界人口の約90%が携帯電話やSMSサービスを持つ見込みであるとの国連のレポートを参照しつつ、「Storytelling」により日本の物語を世界に発信するに当たり、多様なコミュニケーションツールを活用すべきこと、官民が一体となって取り組むべきこと、そして、国内外にいる外国人の日本ファンや批評家を活用するべきことを提案されました。

 プレゼンテーション後の質疑応答では、日本人が優れたPublic Speakerとなるための秘訣、コミュニケーションにおける世代間ギャップ、断絶しがちな政府・経済・文化による各々の外交活動をリンクする方法、そして、日本が中国や韓国から学ぶべき・学ばざるべきこと等について、活発な議論が行われました。

 今後もZESDAはグローバル・ネットワークを構築していくため、「Platform for International Policy Dialogue(PIPD)」を共催して参ります。
引き続き、ZESDAを宜しくお願い致します。