前駐米特命全権大使 藤崎一郎氏より「21世紀の日米関係」Platform for International Policy Dialogue (PIPD) 第13回セミナー開催のご報告

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 NPO法人ZESDAは、「官民恊働ネットワークCrossover」(中央省庁の若手職員を中心とする異業種間ネットワーク)との共催、(株)自由が丘パブリックリレーションズの協力により、在京の大使館、国際機関や外資系企業の職員、及び市民社会関係者をスピーカーに迎え、国内外の政治・経済・社会問題について英語での議論を通じて理解や問題意識を高める、「Platform for International Policy Dialogue (PIPD)」を開催しています。 

 5月26日(火)朝7時30分より開催した第13回PIPDセミナーでは、ゲスト・スピーカーに前駐米特命全権大使であり、現在は上智大学の特別招聘教授及び国際戦略顧問、一般社団法人日米協会の会長としてご活躍されている藤崎一郎氏をお招きし、「21世紀の日米関係」をテーマに30分少々お話を頂いた上で、一時間近く参加者の皆様と活発なディスカッションを行いました。なお、本セミナーでゲスト・スピーカーとして日本人の方に登壇をお願いしたのは今回が初めてですが、司会進行・プレゼンテーション・及び質疑応答はこれまで同様、全て英語で行いました。

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 冒頭、藤崎氏は、自己紹介をされながら「2012年、駐米大使を最後に退官した際、『これからは色々と気にすること無くなんでも話せる。』といったら友人に『もう誰も、あなたの発言など気にしないよ』と言われてしまった」とジョークを飛ばしたので、会場は笑いに包まれました。

 打ち解けた雰囲気の中、藤崎氏は最初の話題として、2015年4月の安倍総理による米国上下両院合同会議における演説を取り上げられ、「戦後70年という節目の年、且つ、政治・経済・安全保障上の新たな難題がアジア太平洋地域において山積しているタイミングにおいて行われた演説であり、また近年の日本の政治指導者と比較して強い政治基盤を持ったリーダーの演説であった、という点で、特別な意義があるものであった」との認識を示されました。特に、演説において「Deep Repentance(深い悔悟)」との言葉を使ったこと、総理自ら記者会見で安倍内閣として河野談話を修正する意図は無いことを明確にしたことは目新しいと述べました。そして、オバマ大統領と安倍総理との懇談の様子がこれまで外交官として直接関わってきた多くの日米首脳会談よりも親密なものに見えたこと等に注目され、「本演説は、戦後の日米関係が、かつてマンスフィールド駐日大使が表現され、その後、ダニエル・井上議員を始め多くの知日派の政治家に引用されたフレーズ、“日米関係は、世界において最も重要な二国間関係である。そしてそれは他に類をみない(The U.S.-Japan relationship is the most important bilateral relationship in the world, bar none)”を真に体現する新たなフェーズに入ったことを象徴する意味を持ったのではないだろうか」とのお考えを示されました。

 次に、現在国会で審議が行われている安全保障関連の法案に話題を移され、「メディアや多くの人々は、本法案が日本の安全保障政策の根本的な転換であると表現している。しかし、本法案が、「吉田ドクトリン」で示されたDefense-orientedである日本の安全保障政策の基本的態度に変化をもたらすものでない以上、その方向性を“転換”するものとは言えないのではないか」との認識を示された一方で、「ただし、今回の議論のペースについては、過去の安全保障政策の見直し時と比較して速い」と指摘されました。藤崎氏は、沖縄普天間基地の辺野古移設を巡る問題についても、移設が必要とされる理由やこれまでの経緯、そして検討の俎上に上ったその他の選択肢についても、丁寧に参加者に説明をして下さいました。

 大詰めを迎えるTPP交渉に話題を移された藤崎氏は、かつて外交官として関わったWTO農業交渉のご経験も紹介しながら、「多国間交渉というものは、国内の利害関係に囚われる余り、主体的関与の機会を逃してしまうと、再びメイン・プレーヤーとして交渉のテーブルに戻ることは極めて困難である」こと、そして「困難な交渉を妥結に導くためには、時として、政治家が、官僚や補佐官の手を借りずに、自らの言葉と知識で直接相手と交渉をすることが求められる」こと等を指摘されました。

 藤崎氏は、様々な意見が飛び交うアジアインフラ投資銀行(AIIB)問題についても、お考えを共有して下さいました。即ち、AIIBは片方で多国間協働によるアジアのインフラ整備を主導し、もう片方では南沙諸島で軍事拠点を築いている中国の如才ない政策であり、ガバナンス等の観点から参加の可否を慎重に判断する、米国との連携を重視する、との日本政府の現在のスタンスは適当である、とのお考えを示された上で、「日本の対応振りは世界から注視されていることを認識することが重要である」と強調されました。その上で、今後の日米関係を考える上で大切な原則として「3つのNo」、即ち「No Surprise (ニクソン・ショックのような驚きを相互に与えないようにすること)」、「No Over -politicization(難題が発生した際、お互い過度に政治問題化させないよう自制すること)」、及び「No taking for granted(何事も、お互いに「当然のこと」と捉えないようにすること)を提示され、お話を終えられました。

 その後に続く質疑応答では、外国から見た安倍首相のイメージの就任時からの変化、新安保法制により米国の戦争に日本が巻き込まれるとの懸念、今後の対中政策のあり方、米軍再編についての見方、沖縄の基地問題の今後の見通しと日米両国政府に求められる対応、日本の政治リーダーの対外発信力・語学力等、幅広い話題について活発な質疑応答、議論が交わされました。

 応答の中で藤崎氏は、近代史を多角的視点から学ぶことの重要性を参加者に強調されました。また、今回は、第5回PIPDセミナーで、ゲスト・スピーカーとして「日米防衛協力の指針」についてプレゼンテーションをして下さったThu Nguyen米国国務省軍事・政治問題担当専門官も参加して下さったこともあり、より一層深みある議論を楽しむことが出来ました。

 今後もZESDAはグローバル・ネットワークを構築していくため、「Platform for International Policy Dialogue(PIPD)」を共催して参ります。
引き続き、ZESDAを宜しくお願い致します。