Ms. Dionne Ng(東京大学教養学部教養学科国際日本研究コース)より「あなたにとって「ことば」とは?東大留学生ディオンが見た「やさしい日本語」」 Platform for International Policy Dialogue (PIPD) 第40回セミナー開催のご報告

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NPO法人ZESDAは、「官民恊働ネットワークCrossover」(中央省庁の若手職員を中心とする異業種間ネットワーク)との共催、株式会社クリックネット まなび創生ラボ の協力により、在京の大使館、国際機関や外資系企業の職員、及び市民社会関係者をスピーカーに迎え、国内外の政治・経済・社会問題について英語での議論を通じて理解や問題意識を高める、「Platform for International Policy Dialogue (PIPD)」を開催しています。

 9月10日(日)12時より開催された第40回PIPDセミナーでは、現在、東京大学教養学部教養学科国際日本研究コースで学び、10月から戦略系コンサルティング会社の日本法人に就職予定のDionne Ngさんをお招きし、What does language mean to you? An international student’s view on “Easy Japanese” 「あなたにとって「ことば」とは?東大留学生ディオンが見た「やさしい日本語」」についてお話頂きました。

 ディオンさんは、今年の4月に自身初となる著作、『東大留学生ディオンが見たニッポン』を岩波ジュニア新書より出版されました。本書では、日本語という言語および日本文化の特徴とその背景、日本人の道徳観などに対する深い考察がなされています。今回のセミナーでは、ディオンさんが学生時代に研究された「やさしい日本語」をケーススタディとして、私たちにとって「ことば」とは何を意味するのかについて、参加者同士のディスカッションを通じて向き合いました。

 セミナーの冒頭、ディオンさんから日本人が「ことば」について考える際に大切な3つの視点が参加者に共有されました。その3つの視点とは、「“日本語”とは何か?」「日本社会における外国語の役割とは?」「現代日本社会に必要な“ことば”とは?」です。これらの視点は、セミナー後半における参加者同士のディスカッション時にも意識されました。
 その後、ディオンさんから、①「やさしい日本語」の定義、②「やさしい日本語」の活用、について説明いただきました。

① 「やさしい日本語」の定義
「やさしい日本語」とは、外国人に分かりやすいように簡易化された日本語のことを指します。この新しい「ことば」が生まれたきっかけは、阪神淡路大震災時に外国人被災者が災害情報の収集に苦労されたことに由来します。災害情報が難解な「日本語」を使用していることに加え、当時の未発達な翻訳システムでは日本語の災害情報の英訳に72時間もの時間を要していました。そこで、震災等の緊急事態において外国人が適切な情報を受け取れるコミュニケーションツールとして、弘前大学の社会言語学研究チームによって「やさしい日本語」が開発されました。
「やさしい日本語」は、日本人が日常生活で使用する「日本語」とは以下の点で異なります。
・日本語能力検定3級以下の語彙と文法で文を作ること
・漢字やカタカナの使用は最小限に留めること
・漢字にはふりがなを付し、難しい単語には説明を付すこと
・単語同士の区切りに「ね」を入れることができる箇所にスペースを入れること
等の特徴を持っているそうです。

② 「やさしい日本語」の活用
法務省のデータによると、2016年における在日外国人数は対前年比で約6.7%増加の約230万人となり、日本の総人口の約1.9%を占めています。このような人口動態の変化及び国際化の進展に伴い、日本国内で日本人と外国人がコミュニケーションを円滑に進めるための共通言語の必要性が高まっています。世界標準語である英語ではなく、「やさしい日本語」を共通言語として国内に普及させる理由について、ディオンさんは次のように説明されました。「日本人は、「外国人」と聞くと「英語を話す人」だと連想しがちです。しかし、在日外国人の内訳は、中国人や韓国人等、アジア出身で英語を母国語としない外国人が多数を占めています 。世界標準語である英語を「やさしい英語」に変えて普及するよりも、在日外国人が日本で生活する際に使用する日本語を「やさしい日本語」に変えて普及する方が、災害時の情報伝達に有効です。」と仰いました。会場は、学びに満ちた雰囲気となりました。

 また、「やさしい日本語」の将来的な活用に関し、ディオンさんは「コミュニケーションの方法には、情報伝達や日本の従来型の教育における一方向のものと、日常会話や多文化共生のために必要な双方向のものがあるが、「やさしい日本語」はその前者としての活用が期待されるものの、後者のコミュニケーションツールとしては十分でないと考えている。」と仰いました。その課題として、「日本は、同年代や年下の人間には使わない敬語を目上の人に使う等、人との付き合いにおいて上下関係を強く意識する社会。「やさしい日本語」ではこのような日本独自の文化や慣習に対応しづらいため、日常会話において「やさしい日本語」を使用すると支障をきたす場合もある。」と指摘なさいました。

 後半のディスカッション・タイムでは、小グループに分かれ、①「やさしい日本語」の将来的な実行可能性、②グローバル化における言語の役割、について、参加者同士のインタラクティブな議論がなされました。参加者からは、「「やさしい日本語」は、日本語特有の分かりにくさがない分、外国人が、日本語や日本社会に興味を持ち日本語を学習し活用するきっかけとして、有効なのではないか。」等の意見が出されました。参加者全体の白熱した議論を通じて、改めて「ことば」とは単なるコミュニケーションツールではなく、私たちの文化やアイデンティティを定義づけるものであり、「ことば」が果たす役割と社会との関わりについて参加者間で認識を深めることができました。
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 なお、本PIPDセミナーにおいても、会場にご協力頂いた株式会社クリックネットまなび創生ラボの皆様に厚く御礼申し上げます。