第7回プロデュース研究講座「イノベーションを加速するプロデューサー」報告

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ブログへのアップが大変おそくなってしまいましたが、先日行われました上記研究会につき簡単に内容について纏めました。

全体にわたり示唆に富むご講演でした。講演いただきました先生方に改めて感謝申し上げます。

ご参照をいただければ幸いです。
よろしくお願いします。

【開催概要】
日時:平成29年9月28日(木)18:00から20:30
場所:政策研究大学院大学
主催:研究・イノベーション学会プロデュース研究分科会

講師:
・福野泰介氏(jig.jp代表取締役)
・安田耕平氏(キャンパスクリエイト社長)
・須藤慎氏(キャンパスクリエイト技術移転部マネージャー)          
     
1.前半:「データシティ鯖江から始まったウェブ新時代」
福野泰介氏(jig.jp代表取締役)のお話

福野さんは、jig.jp代表取締役のかたわらNPO、ボランティアなど様々な活動をされています。本ブログではご講演の内容について筆者が印象に残った項目につき一部分ではありますが報告をさせていただきます。

福野さんは、現在、オープンデータ伝道師※1として活躍されています。

※1:内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室は、オープンデータ利活用を通じての社会課題解決に積極的に取り組み、実績を残した8名を「オープンデータ伝道師」に任命しています。(『オープンデータの伝道師が考える次の一手。重視しているデータの「濃度」』 記事より引用)
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オープンデータ伝道師の福野さんは何故、オープンデータ※2の普及促進に強い関心を持っているのでしょうか。未来のwebの世界について思いを巡らせていたある機会にweb開発者として伝説の人、ティム・バーナーズ=リー氏に実際にお会いされ、この時に氏からオープンデータ(自由に使えるweb上のデータ)について話しを聞いたことがキッカケとのことです。(wikiで氏の情報を調べて、早速、海外まで飛んだ、とのことでした。行動力が素晴らしい!!)

※2:オープンデータは、行政機関がもつ公共データや、交通機関などの公的企業のデータを、著作権や特許などの規制を受けずに誰でも自由に利用できる形で、自らホームページなどで公開する動き。情報を分析・加工することで、新しい行政サービスやビジネスにつながると期待されている。(2013-12-19 朝日新聞 朝刊 1経済 より引用)
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オープンデータ化を普及促進させることによって、誰でもオープンデータを有効活用することが可能となります。

例えば、アプリと連携させることにより、地域防災マップや市町村の人口予測、様々な活用が考えられます。

また、アプリとIoT※3、オープンデータとの連携により、リアルタイムの交通混雑情報の配信など、さらに新しい可能性、用途は広がります。

※3:モノのインターネット(英語: Internet of Things, IoT)とは、様々な「モノ(物)」がインターネットに接続され(単に繋がるだけではなく、モノがインターネットのように繋がる)、情報交換することにより相互に制御する仕組みである。それによる社会の実現も指す。(wiki より引用)

福野さんは、一方で、イチゴジャム(IchigoJam)※4を使ったプログラミングの教育、普及活動にも取り組まれています。

※4:IchigoJamとは手のひらにのせられる大きさの、プログラミング専用こどもパソコンです。IchigoJamにテレビとキーボードをつなげば、すぐにプログラミングを始められます。(IchigoJam HPより引用)

イチゴジャムは、価格は100円(非常に安価!!)ながらCPUのクロック数は2秒で1億回という優れた性能を有する手のひらサイズで、プログラムを走らせることの出来るちょっとした小型パソコンのようなものです。

イチゴジャムの子供向け教室(3年前から福野さんが主催。「すべての子供たちにプログラミングを」の理念のもと開講。イチゴを卒業した子供たちはリンゴ?!に移行する。)では、小学生からシニアまで幅広い年齢の方々がプログラミングを学び、実際にイチゴジャムで自作プログラムによるユニークな試みに挑戦しています。特に、小・中学生などは、実際にイチョゴジャムで走るゲームを自分の手で作りたいという強いモチベーションがあります。

自作プログラムを組み込んだイチゴジャムとIoTと連携させたイノシシ撃退システムを開発して、イノシシ被害から畑を守っている、というシニア(イチゴジャム子供向け教室の受講生)もいて大変話題になっています。

また、イチゴジャムと市バスの乗降客数の情報に関するオープンデータ、IoTと連携させたリアルタイムの交通混雑情報のためのシステムを開発した女子高生なども現れました。

福野さんは、イノベーションという言葉は、一般的には「技術革新」という意味にとられているが、それは大いなる誤解であることに気づいたそうです。

イノベーションの真の意味は、「価値を創造して社会を変革すること」であると。

また、このようなユニークなオープンデータの活用事例が福井県鯖江市という地方から出てきたこと、とても大きな意味があります。

福野さんは、「こらからの日本活性化の要は、作る(創る)ことであり、それは多品種少量生産の形態を取る。IoTとwebによる波がその成否を決める。それだからこそ中小企業、個人にこそチャンスがあり、また、中央、地方の差別のない世界ゆえにむしろ、地方にこそチャンスがある」と強調されました。

そして、イノベーションを「おもてなしのようにする力」がきっと日本にはあるので全世代で面白いことをしていきましょう、と述べ講演を締めくくられました。

【参考URL】
ⅰ.IchigoJam HP
https://ichigojam.net/about.html

ⅱ.「福野泰介の1日一創」:福野さんのブログ。
http://fukuno.jig.jp/

ⅲ.オープンデータ・カタログサイト
http://www.data.go.jp/?lang=japanese

ⅳ.ティム・バーナーズ=リーのTEDでのプレゼン
https://www.ted.com/talks/tim_berners_lee_on_the_next_web?language=ja

2.後半「広域TLOキャンパスクリエイトにおけるプロデューサーの役割」
安田耕平氏(キャンパスクリエイト社長)
須藤慎氏(キャンパスクリエイト技術移転部マネージャー)のお話

(以下ではキャンパスクリエイト社のお話をそのまま、本ブログ筆者なりに要約し掲載させていただききました。)

キャンパスクリエイト(以下、KC社)は、今から18年まえに設立された主に産学連携をコーディネートする会社です。
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TLO(産学連携支援機関、技術移転機関)※1は、ほとんどが大学の内部にありますが、KC社は大学の外部にある数少ない株式会社です。株主は全て個人により構成されています。大学、国などの公的機関からは完全に独立した民間会社です。

※1:TLOとは、Technology Licensing Organization(技術移転機関)の略称です。大学の研究者の研究成果を特許化し、それを企業へ技術移転する法人であり、産と学の「仲介役」の役割を果たす組織です。大学発の新規産業を生み出し、それにより得られた収益の一部を研究者に戻すことにより研究資金を生み出し、大学の研究の更なる活性化をもたらすという「知的創造サイクル」の原動力として産学連携の中核をなす組織です。(経済産業省HPより引用)

大学と企業を結びつけオープンイノベーション※2を実現することをミッションに活動しています。

※2:オープンイノベーション(英: open innovation)とは、自社だけでなく他社や大学、地方自治体、社会起業家など異業種、異分野が持つ技術やアイデア、サービス、ノウハウ、データ、知識などを組み合わせ、革新的なビジネスモデル、研究成果、製品開発、サービス開発、組織改革、行政改革、地域活性化、ソーシャルイノベーション等につなげるイノベーションの方法論である。
(wikiより引用)

(1)大学・企業・産学連携機関(KC社など)の3者契約で大切なこと。
KC社の600件に渡るこれまでの産学連携サポートの実績から、これが成功する確率はせいぜい3割程度と見込んでおり、また期間も数年以上かかります。

KC社は、実際のところ産学連携においては、企業と大学が共同研究を行う際の研究成果の有無に対する責任について、大学の考え方に大いに問題がある、と考えています。共同契約を締結する際、契約書には「研究成果が達成されない場合は、大学・企業双方に責任がある」旨の条項を入れますが、これはいわば「共同責任」という形のものであり、大学に明確に責任がある形にはなっていません(本音では、大学側に責任は無いという形)。このように、双方の責任、特に結果に対する大学側の責任を曖昧化する傾向があり、大学に対する企業の信用が得られず産学連携が上手く行かない大きな原因の一つになっています。

産学連携を成功させるためには、企業と大学との信頼関係を如何に構築していくのか、が重要な鍵であると考えています。その意味で、それら双方を結びつける産学連携コーディネータの個人としての力量、および役割が非常に重要な点であると認識しています。
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(2)KC社の経営戦略
KC社は、全国の大学に数多く散らばるシーズを必要とする企業に結びつけオープンイノベーションを実現することを使命に活動しています。

そのためにKC社の強みである全国の大学などとの幅広いネットワークと、コーディネータの共同研究に対する支援力、スタッフの優れた提案力などをフル活用しています。また、関東圏における知名度などのブランド力も強みです。

産学連携の分野での事業環境から、KC社の優れたwebマーケティング力なども強みです。特に、TLOとしての利点を多いに活用できることは強みです(関係機関とのリンクが張りやすいなど)。有効なWebマーケティングの一例としてオープンイノベーションに関する記事の掲載を頻繁に行い注目度のアップを図っています。

また、斯界では数少ない株式会社であること(独立度が高いこと)も、産学連携サポート事業への自由度の高さという意味で強みとなっています。

また、フリーランスの社外専門家の活用も積極的に行っています。

(3)オープンイノベーションをコーディネートする上で大切なこと。
産学連携サポートにおいて最も重要なことは、コーディネータの質を維持することである、と考えています。KC社には正規雇用の女性が数多く働いており、働きやすい環境も整えています。マネジメントの仕組みづくりなど、十分に考慮しながら戦略的に取り組んでいます。

オープイノベーション実現に向けたサービスの質の向上にも取り組んでいます。
取引コストの削減、ゼロベースから新しい企画提案などにも重点的に取り組んでいます。共同研究のマネジメント力、大学、企業などの顧客へのリピート力のアップを目指しています。

また、何よりもコーディネータをはじめとしたスタッフの「伝える力」を如何に高めていけるのかが、大学と企業を結びつけるためには重要な点であると認識しています。

企業に対してですが、特に産学連携に意欲が高い相手にアプローチすることが、技術移転、共同研究を増やすことにおいて大切である、と考えています。

(4)今後、強化すべきこと
シーズ調査においは、今までは、勘と経験に頼っていましたが、AIなどの最先端のIT技術を積極的に活用し、膨大なデータからより効率的に有効なシーズを見つけ出すことに取り組んでいきたいです。

(5)KC社の成長のために
特に、欧米企業の実例などにあるように、スタートアップで急成長を実現した企業について関心があります。今後は、経営面で成長曲線が高いモデルを選択することについても研究していきたいです。

【参考URL】
ⅰ.株式会社キャンパスクリエイト HP
http://www.campuscreate.com

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3.全体についての質疑
ご講演の後、桜庭主査の司会で、活発な質疑が行われました。

・質問1:
キャンパスクリエイト社は、大学からの出向者などを受け入れた経験などがあるか。

・質問1に対する回答:
大学からの出向者なども受け入れた経験はあるが、あまり上手くいかない。理由は、業務に対して積極的に成果を出して行こうというモチベーション面や、民間企業の職員として、一定期間内で個人の業績のアウトプットを出ださなければならないという危機感をシビアに持てるかどうかの面である。
大学からの出向者の場合、給与の面では出向元である大学が保証しており、出向先で是が非でも成果をださねばならないという危機感や、それとも関連するかもしれないが業務への取り組みに関するモチベーションの面で、どうしても足りない部分あると痛切に感じる。
しかし、地方大学からの出向者で上手くいった例はあった。ただ、やはり大学自体が持つ体質は難しい部分も多々あり、大学事務局自体の様々な規制、保守性など越えなければいけないという主に組織体質に関する課題などもかえって浮き彫りになってきている。

・質問2:
TLOにおけるwebマーケティングは、ことごとく失敗している、という感想を持っている。これについてのKC社における独自工夫などは何かあるのか。

・質問2に対する回答:
webマーケティングの手法などについては、業界ではだいたい確立されていると思う。やはりシステム面での強化や効率性の更なる追求が改善すべきポイントであるように考える。また、シーズの技術説明をより分かりやすく説明する工夫を凝らすことが重要である。それにより問合せ件数も多くなるとの感触がある。

・質問3:
TLOについて問題なのは、企業が金を出すことに対しての納得感の有無に尽きると考えているが、それを解決する有効な手段として産学連携における研究開発の作業工数の効率化が考えられると思うが、それについてはどのように考えるのか。

・質問3に対する回答:
KC社としては、やはり必ず掛かってくるコストについては企業に対してはしっかりとした事前の説明をしなければならない。これに対して予算化することについて可能であり、かつ産学連携に対してモチベーションが高い企業をしっかりと選択していくことが重要である、と考えている。特に金額面などでの条件は事前に大学、企業、KC社などが3者でシビアな意味で充分に納得した形でなければこの事業は成功しない、と確信している。

・質問4:
私(質問者)は、スクールボランティアに取り組んでいるが、福野さんが実際に開催したイチゴジャムの教室などは、どのような形で行ったのか。

・質問4に対する回答:
鯖江市の学校でクラブ活動としてプログラミング教室を行った。はじめは1校だけだったが、次第に増えていき10校までになった。私(福野さん)自身もボランティアとして参加した。
また、ふるさと教室という形で東京などにいる人が自分の故郷で展開しても面白いと思う。自身の体験などのお話なども含めたプログラミング教室をやるのも地方の魅力発信に繋がっていくと思う。

・質問5:
双方への質問。ライバルはいるのか?

・質問5への回答:
ライバルはイギリス。(福野さん)
イギリスにはラズベリーパイがある。イギリス人がやっている。このデバイスは2,000万円で販売できている。イチゴジャムもそれぐらいの価値ある物として発展していってほしい。
あと、鯖江市のライバルはイギリスと言うとカッコイイと思った!!

KC社はTLOの分野でコンサルで勝負する日本で唯一の会社なのでライバルはいない、と自負している。実際のシーズの質と量に依存しないビジネスモデルである。民間の競合他社ともその点が異なっている。
また、欧米企業などでの創業のスタートアップで急成長している企業などにも経営上のヒントがある、と感じている。

KC社には、動画関連の技術について色々と教えを受けたい。(福野さん)

・質問6:
プロジェクトを実現するには、やはり市長のツルの一声が大切なのでは。(福野さんへの質問)

・質問6への回答:
地方の市役所などでも変化に対するモチベーションが高い職員が多いところがある。それの有無がプロジェクトの実現には何よりも大切。
都会に住む人に対しても東京だけではなく地方に帰っても楽しい人生がある、と強く言いたい。

・質問7:
TLOであるKC社が株式会社であることの意味は何か。

・質問7への回答:
株主に対しての説明責任。将来への見通しを含めた説明が必須。

・質問8:
KC社が考えるニーズとシーズを繋げることで重要なことは何か。

・質問8への回答:
そのニーズがある業界に焦点を絞って戦略的に取り組むこと。

・質問9:
福野さんが会社経営において大きなお金が必要である、と考えている項目は何か。

・質問9への回答:
やはり広告費だと思う。これについては追加投資も含めてしっかりとやっていきたい。

4.結び
前半、後半とそれぞれ性格の異なる2つケースについてのご講演を通じた本ブログ筆者の感想は以下です。
  
前半の福野さんのお話は、地方の魅力・発信力を如何に高めていくのかということで大変、示唆に富んでいました。福野さん自身の夢とロマン、ご自身の好きなもの、やりたいことへと素直に向かっていく勇気、エネルギーと行動力が、独創的なイノベーションへの推進力になっていることが良く分かりました。

キャンパスクリエイト社のお話では、TLO(産学連携支援機関)を民間企業として経営することの難しさや、一方でのやり甲斐の大きさについて一部ではありますが理解できました。また、難しい領域で企業体として逞しく生き残っていくために創意工夫、努力を惜しまずに実行していくことが如何に大切であるのかを教えていただきました。

双方のお話で共通することは、役所、大学、企業などの既存の大きな組織、個人などを如何に動かしていくのかということに苦心されています。そして、それら組織、個人との高いレベルでのモチベーションの共有と協力関係を築いていくためには具体的な戦術も含めたしっかりとした戦略を持って取り組まなければならないことを改めて認識出来ました。

今更当たり前のことではありますが、事業や取り組みに参加する企業、大学、役所、個人などのステークホルダー相互でのwin-winの関係を物心両面で巧みに構築し、それに向けて有効な施策を愚直に実行していくことが成功の秘訣である、強く思いました。

【参考】
ⅰ.「産学連携が成功するための条件とは何か 〜イノベーションと企業家(アントレプレナー)、その可能性の中心〜」(ZESDA ブログ /2017/02/28)
http://zesda.hatenablog.com/entry/2017/02/28/225107

(講演内容の纏め記事・執筆担当:ZESDA 鬼丸康太郎)

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