NPO法人ZESDAは、「官民恊働ネットワークCrossover」(中央省庁の若手職員を中心とする異業種間ネットワーク)との共催、株式会社クリックネット まなび創生ラボ、株式会社自由が丘パブリックリレーションズの協力により、在京の大使館、国際機関や外資系企業の職員、及び市民社会関係者をスピーカーに迎え、国内外の政治・経済・社会問題について英語での議論を通じて理解や問題意識を高める、「Platform for International Policy Dialogue (PIPD)」を開催しています。
6月1日(水)の夜8:00から9:30までの時間帯で開催した第26回PIPDセミナーは、ノースダコタ大学学長のマーク・ケネディ教授をゲスト・スピーカーとしてお招きし、「ビジネス・政策環境を形成する“Shapeholder”を特定し、彼らを取り込んだ戦略をつくるには?」をテーマにお話し頂き、その後教授から提示されたケースを用いたグループ・ワークを行いました。
ケネディ教授は、ミネソタ州選出の米国下院議員を3期務められ、ブッシュ政権(2期目)及びオバマ政権(1期目)にて通商アドバイザーとして活躍、そしてジョージワシントン大学ポリティカルマネジメント大学院(GSPM)院長として同大学院の発展に多大な貢献をされてきました。今回、ケネディ教授が5月末に数日間訪日される機会を捉え、PIPDスタッフとの特別なご縁から、訪日中のタイトなスケジュールの中、懇親会も含めて、PIPDセミナーに参加頂くことができました。
なお、今回は、会場としてエコッツェリア協会様が運営されている素晴らしい交流施設「3×3Labo Future 」を利用させて頂きました。この場をお借りしてご厚意にお礼申し上げます。有り難うございました。
ビジネスマン、政治家、そして大学教授として多方面で活躍をされてきたケネディ教授が提示する「Shapeholder」というコンセプト。教授はこの耳慣れない言葉を、ご自身で撮影された印象的な写真で織りなされたプレゼンテーションスライドを使って、テンポ良く、そしてとても分かりやすく伝えて下さいました。
- Shapeholderとは何か?-Shareholder、Stakeholderとの違い-
ビジネスにおいて、株主(Shareholder)や利害関係者(Stakeholder:自社の従業員、取引先、顧客、及び拠点を置く地域社会)と対話をしながら、彼らの声を経営判断に活かしていくことの重要性については、既に多くの人々が認識しているところです。
しかし、ケネディ教授は、「多くの企業人が、自らが直接関わるマーケットの外で、自分たちとは異なる動機で動いているShapeholderの動向や彼らが経営に与える重大な影響については気付いていない」と指摘します。教授が提唱する「Shapeholder」とは、企業経営に直接の利害関係をもたないものの、その企業がマーケットで利用可能な選択肢の広さを形作る(Shapeする)者を指すそうです。例えば、政治の動向、規制の変更や新規導入、メディアの論調、市民活動家のキャンペーン等がこれにあたります。
- なぜShapeholderが重要なのか?
ケネディ教授は、「ShareholderやStakeholderと異なり、Shapeholderはあなたの企業が失敗しようが、成功しようが、直接影響を受けることはない。しかし、あなたとは異なる動機や価値観で動いている彼らの動向は、あなたの企業が手にできる機会、あるいは直面するリスクに大きな影響を及ぼす」と指摘します。例えば、著名な環境保護団体であるGreen Peaceの動きに鈍感であれば、石炭採掘を営む企業は大きなリスクに晒される一方で、その企業の倒産が直接の原因となってGreen Peaceが倒産する、あるいは業績を高めることはありません。ここでGreen Peaceは石炭採掘産業が操業しやすい(し難い)雰囲気を「Shape」する役割を果たしています。
Shapeholderが企業の業績に与える大きな影響の具体例としてケネディ教授は、マーケティングで大きな成功を世界中で収めているコカコーラ社が、「肥満防止キャンペーン」を展開するNGOの活動により、ボストン市内のあらゆる公共施設で自動販売機の設置が出来ないでいること、アイルランドで500万人のユーザーを持つFacebookが、政府の規制により中国で10億人の潜在的ユーザーに全くアクセスできていないことを挙げられました。
その上で、「市民団体やメディアの声を、『彼らは何も分かっていない』と、あたかも“ノイズ”であるかのように受け止め、ShareholderやStakeholderを満足させることばかりに集中すれば、巨大なマーケット機会を喪失することになるだろう」と警鐘をならされました。
また、ケネディ教授は「Shapeholder」はビジネスにとって重要なだけでなく、NGO/NPO職員、軍関係者、政治家が、それぞれのミッションを追求する際にも、馬鹿にならないインパクトを及ぼすと指摘されました。
- Shapeholderを特定し、効果的に関与するには何が必要か?
目の前のマーケットや慣れ親しんだShareholder/Stakeholderの動向ばかりに目がいく状況を、ケネディ教授は「トンネルの中にいるようだ(外の世界が見えていない)」と表現されました。その上で、Shapeholderに効果的に関与するためには「視界を開くこと」が重要であると指摘します。具体的には、いきなり解決策を考える前にShapeholderの立場にたった「問いかけ」を考えること、自分の発信するメッセージや市場での活動がShapeholderからどのように受取られるか出来るだけ客観的に予測すること、これらを効果的に実践するために、自社の伝統的なマーケット以外の場所で経験を積んだ価値観の異なる人間を組織に招き入れるといった方法を紹介されました。
その上で、「何よりも重要なのは、立場の違いを超えた仲間をつくること(Assemble)である」と強調され、プレゼンテーションを終えられました。
- ケース・スタディ:「男性の育児休業取得義務化法案」を可決させるためのShapeholder Management
プレゼンテーション終了後には、教授がお話しされた内容に対する質疑応答に続き、「Shapeholder」について理解を深め、特に「Assemble(立場の違いを超えた仲間をつくる)」ことの重要性、難しさを体験するための、ケース・スタディを通じたグループワークを行いました。
4-5人の小グループを作った参加者に対して、ケネディ教授は以下のような事例を提示しました。
「君たちは、『全ての企業に男性の育児休業取得を義務付ける法案』の成立を目指す議員グループだ。この法案を無事成立させるには、国会の雰囲気を「Shape」し、同志となる議員を超党派でAssembleしなければならない。」
ケースの前提の理解が浸透しているかを確認した上で、ケネディ教授は参加者に対して次の課題を投げかけました。
「まず、この法案を殺す(廃案にする)ことを考える勢力が、同僚議員に投げかけるであろう、最も効果的な「質問」を一つ考えてもらいたい。」
ケネディ教授がプレゼンテーションで強調された「自分が追求するミッション(マーケット)の外にいるShapeholderの視点」に立った「Killer Question」をつくるべく、参加者はグループワークを開始。使用言語はもちろん英語オンリー。活発に議論するチーム、笑い声に包まれるチーム、悩ましい沈黙に支配されるチーム・・・それぞれの回答を配布された紙に記載していきます。
5分後、ケネディ教授の声がけでグループワークはいったん終了。チームの代表が考えついた「質問」を会場全体と英語で共有していきます。
Do you want to kill small and medium sized companies?
(中小企業を倒産させたいのか?)
Do you think this is the only solution to address the issue?
(これが本当に唯一の解決策だろうか?)
Why does the government have to intervene in such a private matter?
(そんな個人的な話にどうして政府が首を突っ込まなければならないのだろう?)
法案を廃案に持ち込むための刺激的なkiller questionが発表されました。ケネディ教授はコメントをしながら各チームのアイディアをホワイトボードに記していきます。
全てのチームの回答が出された後、ケネディ教授は、第二の課題を提示しました。
「今度は逆に、この法案を通す(成立させるにする)ために、あなた方が同僚議員に投げかけるであろう、最も効果的な「質問」を一つ考えてもらいたい。」
会場はさらに活発な議論に包まれ、様々なアイディアが出されていきます。
Do you want to deprive young father with the most precious time in their life?
(若い父親から人生で最も貴重な時間を奪って良いのだろうか?)
Do you want to see more divorce and fewer kids?
(離婚件数の増加や子供の数の更なる減少を望むのか?)
Do you believe it is only woman who should take care of kids?
(子供の面倒は女性だけが見れば良いのだろうか?)
こうしたケース・スタディに基づくグループワークを通じて、ケネディ教授は、Shapeholderマネジメントの要諦である「自分と異なるミッション(マーケット)で動く人々の立場に立つこと」、「解決策を考える前に問いかけを考えること」、そして「広く様々な人々を味方に付けていくこと」の大切さと難しさを参加者が理解する機会を与えてくださいました。
セミナー終了後には、近隣のレストランに共に場所を移し、セミナー参加者全員とケネディ教授とで、教授が愛する赤ワインで乾杯。セミナーを振り返りながら夜遅くまで懇親会を続けました。