NPO法人ZESDAは、「官民恊働ネットワークCrossover」(中央省庁の若手職員を中心とする異業種間ネットワーク)との共催、株式会社クリックネット まなび創生ラボ、株式会社自由が丘パブリックリレーションズの協力により、在京の大使館、国際機関や外資系企業の職員、及び市民社会関係者をスピーカーに迎え、国内外の政治・経済・社会問題について英語での議論を通じて理解や問題意識を高める、「Platform for International Policy Dialogue (PIPD)」を開催しています。
4月23日(水)の朝に開催致しました第25回PIPDセミナーでは、数々の受賞歴を持つフィルム/ビデオ ディレクターであり、舞台演出家、シナリオライター、プロデューサーとして活躍されているDeborah Ann DeSnoo女史をお招きして“Power of entertainment for a cross-cultural dialogue – tips to empower you to be an effective cross-cultural communicator”(エンターテイメントの力~異文化コミュニケーション力を強化するには~)」についてお話頂いた後、参加者の皆様でディスカッションを行いました。
Deborah女史のプレゼンテーションは、ある作品をインドで作成した経験談から始まりました。この中で、「誰しも異文化間のコミュニケーションでは誤解をするものだから、誤解から生じる問題について案じ過ぎなくて良い」と述べられ、このことを分かりやすく表現したDeborah女史の友人が作成した映像作品を紹介されました。
その作品には、外見が日本人であるがアメリカ育ちであるために日本語が話せない女性と、外見は外国人であるが流暢な日本語を話す数名の男女が登場します。彼らは日本のレストランで注文をするが、注文を取りに来た店員は「外見が日本人の女性」のみに話しかけ、「外見が外国人」の数名が日本語で話しかけてもそのスタッフは「英語がわからないので…」としか答えません。結局「外見が外国人の3人」が「外見が日本人の女性」に日本語を教え、カタコトの日本語で注文をしたところ店員が聞き取ってシーンは終わります。
外見とアイデンティティのギャップを皮肉たっぷりに表現した作品に対する参加者の感想を聞いた後、Deborah女史は、「この作品のように本来問題がないところに、問題ができてしまう」ことが異文化間コミュニケーションの難しさであること、だからこそ「聴くことが大切」と強調されました。また、「聴くこと」によって目の前で何が起こっているかを正しく理解できること、そして、そうしたスキルはグローバルに生きる上で欠かせないものであると主張されました。
16歳で高校を卒業した後、女優としてのキャリアをスタートしたDeborah女史のお父様は日本企業で社長を務めていたそうです。50歳から合気道を始めたお父様と、早朝から道場に通っていたDeborah女史は、そこで初めて外国文化に触れる経験をされました。
日本での初めての女優としての仕事は「我が愛」という作品への出演だったそうです。3ヶ月間にわたる仕事に関わる役者・スタッフは、Deborah女史を除けば全員日本人でした。そんな経験を振り返りながらDeborah女史は、「そこで学んだことが「聴くこと」でした。私は他の役者の人たちが話している時でもひたすらに「聴くこと」に集中し、彼らがどんな話をしているのかに常に耳を傾けていました。」とお話しされました。
その公演を見に来ていた劇団から依頼を受けことがきっかけとなり、演出・人材育成のディレクターとしての活動も始められたそうです。そして、効果的な演出を考える上で重要となる日本語力を高めた経験について、以下のようなエピソードを共有して下さいました。
「私が最初に勉強した日本語は「能」の日本語でした。古典芸術を学ぶことは歴史を学ぶことでもあり非常に難しいものです。有名な劇作家である別役実氏の日本語も勉強しました。特徴のある日本語を学ぶことで日本語の演出を理解していきました。こうした経験があったからこそ、例えば“Arsenic and Old Lace(邦題:毒薬と老嬢)”を翻訳した際、“Poison”を「ぼけ酒」と表現できたとだと思います。」
Deborah女史は、「外国で生活する上で、その文化のシステムを理解することが鍵」であることを、ご自身の旦那様が過労で倒れた経験に基づき、“corporate warrior(邦題:過労死)”という作品を制作したエピソードを通じてお話をして下さいました。
「当時、夫は72時間働いて1日休むという生活を繰り返しており、過労が原因で何度も倒れ病院に担ぎこまれていました。私は日本の病院システムに詳しくなりました。日本では外国人が救急指定病院を使うことは容易ではありません。病院の医師を紹介してくれる日本人の友人が必要なのです。以前、夫が心筋梗塞で倒れたとき、友人を介し、何とか救急指定病院に行くことができました。」
「異文化の中で生きるには、その文化のシステムを理解することが重要です。そのシステムに対して“But”と言っても夫は助かりません。こうした経験をもとに制作したのが“corporate warrior”です。この作品は物議をかもすものであったことから、NHKのNews7で取り上げられ、10分弱の私のインタビューも放送されました。またアメリカのTVでも同様に取り上げられました。論争的な作品を敢えて制作したのは、私が日本という国を愛していたから、この国を嫌いにはなりたくなかったからです。私には仕事による死が容認されることを理解できなかったのです。」
プレゼンテーションの締めくくりには、同じストーリーでありながら、日本語版と国際版(英語版)とで、表現方法・演出が異なる例として、Deborah女史が手掛けた“Skeletons in the Closet(邦題:異界百物語)“の冒頭を日本語版・国際版それぞれ上映頂き、日本向けと外国向けでは言語の翻訳以外に、BGMや効果音等の表現がどのように違うかについて説明頂きました。
プレゼンテーション後の質疑応答では、異文化交流によって起こるネガティブな事柄に対してどのように対応すれば良いか、日本人は人までのプレゼンテーションが米国人と比して不得意と言われるが、どのような点を修正する江波良いのか、といった点について、活発なやりとりが最後まで続きました。