NPO法人ZESDAは、「官民恊働ネットワークCrossover」(中央省庁の若手職員を中心とする異業種間ネットワーク)との共催、(株)自由が丘パブリックリレーションズの協力により、在京の大使館、国際機関や外資系企業の職員、及び市民社会関係者をスピーカーに迎え、国内外の政治・経済・社会問題について英語での議論を通じて理解や問題意識を高める、「Platform for International Policy Dialogue (PIPD)」を開催しています。
2016年1月18日(月)夜8時より、エコッツェリア協会様が運営する丸の内のオープンスペース「3×3ラボ」にて開催した「PIPD第20回記念特別企画」では、過去、PIPDにゲスト・スピーカーとしてご登壇いただいた京都外語大学教授、安倍フェロー、そして慶応大義塾大学客員教授として政府の対外広報戦略について研究・提言・及び教鞭をとられているナンシー・スノウ博士、中野区観光大使、慶應義塾大学訪問研究員をされているベンジャミン・ボアズ氏、のお二人をゲスト・スピーカーとしてお招きし、「Branding Japan: 2020 and beyond(2020年とその先を見据えた日本のブランディング戦略)」をテーマに対話形式で議論をして頂いた上で、参加者の皆様とディスカッションを行いました。
当日は雪による交通の影響が心配されたにもかかわらず、100名を超える皆様から参加を頂き、「満員御礼」となった会場は、降り積もった雪を溶かしてしまうくらいの熱気に満ちていました。
今回、ゲスト・スピーカーのお二人による対話や参加者との議論の模様は、公共政策に特化したコンサルティング・ファームLangley Esquire社が作成・提供している「Brand 2020」シリーズの1つとしてビデオ化され、広く一般に共有される予定です。このため、セミナーの冒頭にLangley Esquire社・代表取締役社長のラングリー・ティモシー氏よりご挨拶を頂きました。
※ Langley Esquire社様作成の「Brand 2020」ビデオは以下よりご覧いただけます。
https://www.youtube.com/watch?v=_GJR5C6u-B4
パネルディスカッションは、Crossover代表の池田がモデレーターを務めながら、参加者の皆様から申込時に頂いていた様々な質問・コメントのうち、特に多かった以下の3つの質問にスピーカーのお二人が答えて頂く形で進みました。
THEME I WHY does “branding Japan” matter?
(なぜ、”日本のブランド化“が大切なのか?)
スノー博士は「日本はすでにブランドであり、私たち二人がそうであったように、多くの外国人を惹きつける要素を持っている」と強調しつつ、御自身が22年前に初めて訪日した際の心境にも触れながら「日本語や日本社会が持つ様々な慣習・しきたりが、外国人が日本に近づく上でのハードルとなっている」と指摘されました。そして、こうした要素は時として日本への誤解や怖れを生みかねないため、日本に少しでも興味を持った外国人が、たとえ言葉がわからなくても気軽に日本を訪れ、知ることが出来るようにする、つまり、日本への参入障壁を引き下げることが「Branding Japan」を考え、実践するうえで大切な要素であると話されました。
THEME II WHAT makes Japanese Brands unique from other country?
(他国と比較して、日本の何が日本をユニークなブランドとしているのか?)
参加者から事前に寄せられた質問の中で最も多かったこの問いに対して、ボアズ氏は、「“日本の何がクールなのか?は典型的な質問だが、寿司、歌舞伎、マンガ・アニメ等、個別の文化や商品等を特定しようと躍起になるのはあまり懸命なこととは思えない。日本は本当に多種多様な魅力があり、また外国人がそのどれに興味を感じるのかはその人次第なのだから」と応えたうえで「敢えて一つ挙げるなら日本が安全であること」と指摘されました。
そして「如何に魅力ある国でも、安全でなければ近づくことすらできない。安全性は日本人にとって当然のことであり、アピール・ポイントと感じられないかもしれないが、誰もがそれぞれの興味に応じて日本を訪れ、楽しむうえで最重要で、また世界の多くの国が持っていない要素である」と強調されました。
スノー博士は、安倍首相が2012年に再度就任して以来、Abenomicsや Womenomicsというブランド名で、世界の日本に対する注目が大きく高まったこと、及び、中国が中国語や中国文化を発信する「孔子学院」を世界各地につくる等、様々なキャンペーンを大々的に展開しているものの、必ずしも、国そのものに対するイメージの好転につながっていないことに触れつつ、国のブランド・イメージに対して政治リーダーの持つ影響力は、良くも悪くも大きい、と指摘されました。そのうえで、2020年の東京オリンピックに向けて、かつてない数の人々が世界中から日本に訪れる機会を前に、政治リーダーだけでなく「国民一人一人が観光大使」という自覚をもって、日本について発信・説明し、また外国人と触れ合うことが大切であると語られました。
THEME III HOW can Japanese brands be loved/promoted further by people other than Japanese?
(日本ブランドが日本人以外の人々からさらに愛され、発信されるには、どうすればよいか?)
ボアズ氏は「外国人に分かりやすい地図標記検討会」が昨年9月に公表した報告書が、日本の地図記号を、日本に関する知識が全くない人でもパッと見てわかるものに変えていくための具体的提案を、外国人の声を反映させながら提示していることを紹介しつつ、この手のテーマについて政府、企業、自治体等で検討をする際に、発信の対象である外国人を議論に加え、彼らの声を方針に反映させることが重要であると指摘されました。
続いてスノー博士は「日本は、都会と田舎、伝統と最先端の技術等、相互に相矛盾する様々な要素を持っており、まったく一枚岩ではない」、「皆が気付いていないニッチな魅力や発信方法が沢山ある」、「だからこそ、可能な限り多様な人々同士でBranding Japanを議論し、ダイナミックに実践することが欠かせない」と強調されました。
また「政府主導のBranding Japanはプロパガンダとして人々から胡散臭い目で見られかねない」と指摘。この点について、現在日本政府がロンドンやサンパウロなど設けた「Japan House」は、日本政府や各国にある日本大使館主導ではなく、日本のエキスパートとその土地のリーダーが協働しながら、各地域のネットワークを活用して日本の魅力を発信しているという意味で上手なアプローチであると紹介されました。
そのうえで、お二人は「なぜ日本政府や日本の大手企業において、外国人を含む多様な声が反映されにくいのか?」という点について議論を展開されました。
そして、その背景には「批判や反論、そして失敗を許さない完ぺき主義のカルチャーがあるのではないか」と指摘。そのうえで、2020年を超えてBranding Japanを継続的に成功させるには、試行錯誤を許容しRisk takersを賞賛しながら新しいやり方や見方を取り入れていくこと、批判や反対意見を新しい学習や変化の糧として活かすことが大切であると強調され、「自分たちはそのような存在であり続けたいし、そうしたマインド・セットと行動力を持つ人と、日本の様々なシステムとの間をつなぐ、仲介役の役割を果たしていきたい」と語られました。
最後に、スノー博士は、外国語学習者を言語別に示したスライドを示しながら、英語を外国語として学んでいる人数は世界で15億と他の言語を圧倒していることを紹介。
日本語はとても美しく、難しい言語であり、また日本語という言語の特異性により国が守られていることは認識しつつも、「日本人は英語を学ぶことに対して怖れや完璧主義を持たず、日本人が既に持っている素晴らしいものを、世界のより多くの人に発信するためのツールと割り切って学び、使うことが大切である」と伝えられました。また「日本人は英語が苦手というステレオタイプがあるが、私はそうは思わない。日本人自身がこうしたステレオタイプに悩まされることなく、不完全であることを抱きしめ、気軽に発信して欲しい」というメッセージで、対話を締めくくられました。
対話形式の議論が終了した後の質疑応答では、来るG7日本開催に向けて環境面で日本が発信するべきメッセージ、日本の技術力を高めるイノベーション活性化のための政府と企業の役割、Branding Japan戦略におけるメディアの活用方法、女性の力を活用するためのロールモデル作り、そしてBranding Japan 戦略において中核に据えるべき日本の歴史に基づく統合的な価値等について、活発な議論が交わされました。
イベントの最後に「輪島塗を世界に売り込む方法」について、参加申込時に頂いたアイディアの中から、スノー博士とボアズ氏から選ばれた以下の最優秀提案に対して輪島塗の商品をプレゼントするスペシャル・セッションを持ちました。
“Bring the most attractive Wajima-lacquer products to Paris, London, and New York and showcase them to high-end customer bases in these global cities. That will be the start. Plus, pitch these lacquer products to ambassadors and their families in Japan. ”
(最も魅力的な輪島塗をパリ、ロンドン、ニューヨークといったグローバル都市に持ち込み、富裕層向けの展示会を実施する。併せて、輪島塗を在日の各国大使及びその家族にプレゼントする。)
ボアズ氏は、この提案が優れている理由として、①輪島塗を英語で書く際にWajima-nuriと表現せず、Wajima- lacquerと表現した数少ない提案であったこと(外国人は「nuri」と言われても何のことかわからない)、②日本内外の双方を念頭に置きターゲットを明確に絞っていること、③在日の日本大使をプロモーターとして活用するという実践的な視点があること、の3点を挙げられました。
なお、このセッションは、石川県輪島市で江戸時代から8代にわたり輪島塗の製造と販売を手掛け、現在、その伝統的なビジネスモデルを試行錯誤により変革し世界に輪島塗を知ってもらう革新的な努力を続けている「輪島桐本」様のご協力を得て実現したものです。
本セミナーには石川県より、輪島桐本の代表でいらっしゃる輪島泰一様と社員の方々、そして現在は大学生で、将来、お父上の後を継いで輪島塗を日本、そして世界に発信していきたいという思いを持つ輪島滉平さんに参加頂きました。
授賞式の締めくくりでは滉平さんが英語で「これから、輪島塗を世界に向けて発信していく力になりたいです。英語ももっと勉強していきます!」とメッセージを発信され、会場は温かい共感と拍手に包まれました。会場では輪島塗の展示もあり、多くの人々が手に取りながら、日本の伝統文化を肌で感じられたことと思います。
セミナー終了後には、3×3ラボ近くのビアバーにて、ゲスト・スピーカーのお二人も交え、参加者の皆様方との新年会を盛大に開催いたしました。今回は100名を超える参加者のうち約3分の1が外国人の皆様であったことから、国際色豊かなネットワーキングの場を提供することができました。
今後もZESDAはグローバル・ネットワークを構築していくため、「Platform for International Policy Dialogue(PIPD)」を共催して参ります。引き続き、ZESDAを宜しくお願い致します。