NPO法人ZESDAは、「官民恊働ネットワークCrossover」(中央省庁の若手職員を中心とする異業種間ネットワーク)との共催、(株)自由が丘パブリックリレーションズの協力により、在京の大使館、国際機関や外資系企業の職員、及び市民社会関係者をスピーカーに迎え、国内外の政治・経済・社会問題について英語での議論を通じて理解や問題意識を高める、「Platform for International Policy Dialogue (PIPD)」を開催しています。
2月9日(月)朝7時30分より開催した第七回PIPDセミナーでは、ゲストスピーカーに米国大使館、経済担当官のBibi Voyles氏をお招きし、米国・欧州で議論が沸騰し、人口減少に悩む日本が今後向き合わなければならない課題-「移民受入を巡る議論」-についてプレゼーテンテーションを頂いた上で、参加者の皆様とオープンなディスカッションを行いました。
Voyles氏のプレゼンテーションは、ニューヨークの玄関口に立つ「自由の女神」が見下ろす、「エリス島(Elis Island)」を巡るストーリーで始まりました。エリス島には、19世紀後半から約60年間、主にヨーロッパからやって来た約1,200万人もの移民が米国に入国するための最後の関門、「合衆国移民局」がおかれていたことで知られます。移民局の職員は、入国を希望する人々に健康状態から家族構成至るまで29の質問を投げかけ、これらの質問に全て合格しなければ米国入国を許しません。エリス島に、「希望の島」、「絶望の島」と言う正反対の呼称が付けられた所以です。
Voyles氏は、「自分も、インド、中東、パキスタンの血を引くパキスタン生まれの両親の娘であり、これまで6大陸を移動しつつ3か国で暮らし、そして1990年代初頭に米国に渡った移民である」と紹介された上で、「私のような身の上は、米国では決してユニークな話ではない」と語り、以下の統計を紹介されました。即ち、米国以外で生まれた米国市民の米国総人口に占める割合は、1910年に13%、2010年は12.8%、そして2013年には14%と、過去100年間、殆ど変わっていないが、米国の人口自体が増えているため、移民数も現在4,100万人に達しています。また、移民の出身国を見ると、かつて中心だった欧州やロシアに変わり、現在はメキシコ(約30%)、中国(約15%)、インド(約10%)、フィリピン(約10%)と多様化、結果、総人口に占める白人の割合は1960年代の85%から2010年には64%にまで低下しているとのことです。また、米国東部はインド、中部はミャンマー、西部はフィリピンからの移民が多く、州により出身国の傾向は異なるとのことです。なお、米国の移民全体の75%は法的に認められた移民であり、25%は不法移民だそうです。
こうしたデータを示した上で、Voyles氏は、米国内にある移民に対する反感・不満、例えば「税金を払わない」、「不法にアメリカにやって来て雇用や機会をアメリカ人から奪う」、「英語を習おうとせず、社会に適応しない」といった意見に対して、「移民は、農業、タクシー等の運送業、清掃やゴミ収集業等、必ずしも給与が高くない労働集約的な仕事に従事することで社会に貢献し、消費者として米国経済に貢献し、税金を支払って公共サービスを支えており、むしろ、米国社会が移民に依存している」と反論、「米国の移民は年間360億ドルの経済効果を生み出している」とのデータを紹介されました。また、犯罪の増加を理由に、移民受入れを恐れがちである人々の懸念に対しては、「移民と犯罪との間に明確な相関がない」ことが実証されていることを示しました。併せてVoyles氏は、多くの移民は出身国に送金をしていることから、移民の受入は世界全体の貧困削減や経済成長にもポジティブなインパクトを与えることが出来る、と主張されました。
その上で、Voyles氏は、移民が抱える最大の問題として、米国生まれの米国人と比較して、教育レベルが低い傾向にあることを指摘。そのため、移民を巡る様々な問題や偏見を解決する鍵は教育にあり、現在、オバマ政権の政策である、移民に対するSTEM教育(S:Science, T: Technology, E: Engineering, M: Mathematics)強化を紹介されました。Voyles氏は、「米国のノーベル賞受賞者の4分の1は移民である」ことに触れながら、適切な教育を、「soup-to-nuts approach」で、即ち、生涯に亘って提供する機会を用意すれば、移民が自信の尊厳を高め、敬意を持った人間関係作りをすることが出来るようになり、また、スキルをアップさせ、才能を開花させることが出来るはずであり、これは、米国の経済力上昇にも直結すると述べて、プレゼンテーションを締め括られました。
プレゼンテーション後の質疑応答では、移民に関する合法・不法の定義、米国における氏名に基づく差別の有無、日本における移民問題や、日本が米国の移民政策から学ぶべきこと、リーマンショック後の外国人や移民の就職支援に関して、活発な議論が取り交わされました。質疑応答の中で、Voyles氏はご自身のご経験から、米国は移民を受け入れており、自分が拒絶されたと感じたことはない、また、米国は移民に対して決してベストな政策はとっていないが、世界の中ではベターな政策を実行していると述べられました。
今後もZESDAはグローバル・ネットワークを構築していくため、「Platform for International Policy Dialogue(PIPD)」を共催して参ります。 引き続き、ZESDAを宜しくお願い致します。