- 作者: 山下勝
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2014/11/14
- メディア: 単行本
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本書が展開する議論には、これからの時代、日本のビジネスマン・組織人が「いかに価値を生み出していくか」に関して、非常に有用な知見が数多く含まれていると思います。
例えば、プロデューサーの業態類型を整理し、多様性の豊かな人脈を背景にして、彼らを業界横断的な新規組み合わせを行うことによりイノベーションを導く「企業家型プロデューサー」の存在を指摘していること等、枚挙に暇がないところではあるのですが、
特に、強くコミットメントし合える「仲間」を代替不可能な存在と認識し、彼らの有機的な関係を価値創造活動の軸と考える点は、映画産業のみならず、イノベーションが求められるビジネス一般の未来においても極めて示唆的だと考えます。
というのも、知識やアイデアが簡単にネットで手に入ってしまう現代においては、思いついたアイデアを実際に「実現」する粘り強さこそが重要となります。そのようなタフな過程を走りきるには、互いをかけがえのない存在であると認め合う強い信頼性が不可欠となります。また、そのような信頼関係が互のクリエティビティをも引き出し合うことになりましょう。そして、そうした濃い人間関係は、企業内の官僚的な組織やチームの中よりはむしろ、所属組織の枠を超えた人間一人一人がもつ私的なネットワーク、いわば「仲良し集団」のなかに見出される、と本書は指摘しています。(尚、当団体のような本業を他に持つボランティアメンバーからなるNPO法人は、そのような仲良し集団の典型だとも思います。)
このように、「何をするか」ではなく、「誰とするか」に着目した本書は、「プロデューサーシップ」という、イノベーションを導く特殊なリーダーシップ、アントレプレナーシップの一類型を指摘する先駆的な書として、山下教授の関連書論文とともに、非常に重要な業績だと思います。
他方で、映画業界以外でいわゆるビジネス・プロデューサーシップを発揮していると言えそうな実例・諸論考もまた、巷(含む海外)に既に多数報告されているようにも思われます。ですからきっと、今後、それらとの関係性がより一層検証されていくなかで、同概念がさらに日本ビジネス界一般に普及し、日本らしいイノベーション・メソッドの理論的支柱のひとつになっていくのではないかと思います。また、学問的蓄積はないながらも、ほぼ同様の着想から同名の概念を提唱し商標登録を保持する当団体も、その一助となりたいと考えています。山下教授のご指導ご鞭撻を賜りながら、一緒に活動していきたいと願っています。